高齢の親の賃貸で入る火災保険(家財保険)|加入は義務か・何を補償するか・孤独死や地震のときはどうなるか

親の部屋がようやく決まり、契約の説明を聞いていると「火災保険にも入っていただきます」と言われた。見積書には保険料の欄があり、申込書も渡された。「これは入らないといけないのか」「親がもともと入っている共済ではだめなのか」「何かあったとき、本当に役に立つのか」——その場ではよく分からないまま、署名だけしてしまうご家族は少なくありません。

この記事は、高齢の親の賃貸契約を手伝っている家族に向けて、入居時に求められる火災保険(家財保険)の中身を、国土交通省・消防庁・財務省などの資料をもとに整理したものです。先に結論を書くと、賃貸で入る保険は「親の家財」「大家さんへの賠償」「隣の部屋など第三者への賠償」の3つに分けて見ると、何を確かめればよいかがはっきりします。

なお、保険の補償の範囲や金額は、保険会社・共済ごと、契約ごとに異なります。この記事は特定の商品を勧めるものではなく、契約書と保険の書類のどこを見ればよいかを知っていただくためのものです。

高齢の親の賃貸で、火災保険への加入は義務なのか

国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」は、賃貸借契約のときに住宅総合保険や火災保険、借家人賠償責任保険への加入を求められた場合について、保険の加入が契約条件となっている場合には加入する必要があると考えられると答えています[1]

同じ事例集の解説では、保険への加入は法令によって強制されているものではないものの、契約条件として義務づけられている場合は、原則としてそれを受け入れることを前提に契約を結ぶことになる、とされています[1]。つまり「法律上の義務」ではなく、「その部屋を借りるための契約条件」として求められているということです。

高齢の親の場合、火災保険料は敷金・礼金・保証委託料と一緒に入居時にまとめて払うことが多い費用です。入居時のお金全体の見積もり方は高齢者の賃貸の初期費用|敷金・礼金・保証委託料はいくらか、年金でどう用意するかで解説しています。

賃貸の火災保険(家財保険)は何を補償するのか

相談対応事例集の解説によれば、加入が義務づけられている保険は多くの場合住宅総合保険で、貸主の所有物である建物のほか、借主の所有物である家財に対しても補償されることが多いとされています[1]。また、火災や水害の補償だけでなく、借主が水漏れ事故を起こしてしまった場合の補償や、その事故で隣人や貸主に損害を与えた場合の損害賠償補償などが含まれることも多い、と説明されています[1]

保険の書類では、これらが別々の名前で書かれていることがあります。家族が確かめるときは、次の3つに分けて見ると整理しやすくなります。

何に備えるか書類でよく使われる呼び方高齢の親の暮らしで思い浮かべたい場面
親自身の家財家財(家財保険)火事や水漏れで、家具・家電・衣類が使えなくなった
大家さんへの賠償借家人賠償責任台所の火の不始末で、借りている部屋を焦がしてしまった
隣や階下など第三者への賠償個人賠償責任浴室の水を出しっぱなしにして、階下の部屋に水漏れさせた

「火災保険に入っています」と言われても、この3つのうちどれが付いていて、それぞれいくらまでなのかは、保険証券や重要事項の説明書を見ないと分かりません。契約のときに一覧で説明を受けたら、写しを家族の手元にも残しておくと安心です。

親が火事を出してしまったら、大家さんや隣の部屋への責任はどうなるのか

「火事を出しても弁償しなくていい法律がある」と聞いたことがあるかもしれません。これは明治32年の「失火ノ責任ニ関スル法律」のことで、条文は、民法第709条(不法行為による損害賠償)の規定は失火の場合には適用しない、ただし失火者に重大な過失があったときはこの限りでない、という1文です[2]

この法律が扱っているのは民法第709条の適用です。一方、借りている部屋については、民法第621条が賃借人の原状回復義務を定めています。賃借人は、借りた物を受け取った後に生じた損傷(通常の使用による損耗と経年変化を除く)を、賃貸借が終わったときに原状に戻す義務を負い、ただしその損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでないとされています[3]

家族として押さえておきたいのは、次の2点です。

  • 大家さんとの関係は、賃貸借契約にもとづく原状回復の話になります[3]。入居者向けの保険に「借家人賠償責任」が組み合わされているのは、この場面に備えるためです
  • 隣の部屋の家財は、火元の入居者に重大な過失がない限り、失火者に賠償を求められない場面があります[2]。裏を返せば、隣の部屋からのもらい火で親の家財が焼けても、親の家財は親の保険で備えることになるということです

個々の事故で責任がどうなるかは、事情によって判断が分かれます。実際に事故が起きたときは、保険会社と管理会社に早めに連絡し、必要に応じて専門家に相談してください。

高齢者の住宅火災はどのくらい起きているのか

令和7年版の消防白書によると、令和6年中の住宅火災による死者数(放火自殺者等を除く)は1,030人で、そのうち65歳以上の高齢者は779人、全体の75.6%を占めています[4]

年齢階層別に人口10万人当たりの死者数を見ると、年齢が高くなるほど著しく増えており、81歳以上の階層では全年齢階層の平均の4.0倍とされています[4]。また、住宅火災の発火源別の死者数では、たばこを発火源とした火災による死者数が最多とされています[4]。白書は、住宅火災による死者に占める65歳以上の割合が近年7割以上の高水準で推移しているとも述べています[4]

保険は、火事が起きたあとの費用に備えるものです。ガスコンロの消し忘れや寝たばこのように、火事そのものを起こさない工夫とあわせて考えると、保険の役割が見えやすくなります。

仲介会社が指定する保険に入らないといけないのか——親がすでに共済に入っている場合

親がすでに火災や個人賠償に対応する共済に入っている場合でも、仲介会社から指定の保険に入るよう言われることがあります。相談対応事例集にも、共済に加入しているのに、不動産仲介会社が指定する保険会社の住宅総合保険に加入しなければならないと言われた、という相談が載っています[1]

事例集の回答は、契約条件になっている場合には、基本的に保険に加入する必要があると考えられるとしたうえで、すでに加入している保険がある場合は、その内容と指定された保険の内容を十分に比較し、指定された保険に加入する必要性について不動産仲介会社と相談するのがよい、としています[1]。最終的に契約は貸主と借主の合意によると考えられる、とも書かれています[1]

相談するときは、今の共済の証書(補償の種類と金額が書かれた部分)を持っていくと話が早く進みます。前の節の3つの区分——家財・借家人賠償責任・個人賠償責任——が、今の共済にどこまで付いているかを並べて見せられるからです。

保険の条件や初期費用も含めて、親が入りやすい部屋を相談する——契約条件で気になる点を先に伝えたうえで、高齢の方の入居に前向きな物件を探せます。

地震で起きた火事は、賃貸の火災保険で補償されるのか

財務省の地震保険制度の説明によると、火災保険では、地震を原因とする火災による損害や、地震により延焼・拡大した損害は補償されません[5]

地震保険は火災保険に付帯する方式で契約するもので、火災保険への加入が前提です。対象は居住用の建物と家財(生活用動産)で、保険金額は火災保険の保険金額の30%〜50%の範囲内で決め、家財は1,000万円が限度とされています[5]

賃貸では建物は大家さんの持ち物なので、入居者が考えるのは親の家財に地震保険を付けるかどうかです。入居時の保険に地震保険が付いているかは、保険証券で確かめてください。

保険の補償とは別に、被災して部屋に住めなくなったときの契約や家賃の扱いは高齢の親の賃貸が被災して住めなくなったとき|契約は終わるのか・家賃と敷金はどうなるか・仮設住宅と次の部屋で整理しています。

一人暮らしの親が亡くなったあとの費用や残された荷物は、火災保険で補償されるのか

一人暮らしの親について家族がいちばん気にかけるのは、亡くなって発見が遅れたときの部屋の片付けや原状回復の費用かもしれません。こうした費用に備える特約や保険は商品によって扱いが違い、入居時に入った火災保険で補償されるかどうかは、契約の内容を見ないと分かりません。補償の対象・請求できる人・請求の期限を、保険証券と約款で確かめておくことが出発点になります。

また、保険でお金の手当てができても、賃貸借契約の解除と、部屋に残された家財(残置物)の処理は別に誰かが進めなければなりません。国土交通省と法務省は、単身の高齢者が亡くなった際に契約関係と残置物を円滑に処理できるように「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しており、令和7年10月の改正住宅セーフティネット法の施行で、居住支援法人の業務に入居者からの委託にもとづく残置物処理が加わりました[6]

モデル契約条項の解説コメントは、契約の解除を任せる受任者について、まずは賃借人の推定相続人のいずれかとするのが望ましく、推定相続人を受任者とするのが難しい場合には居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のような第三者とするのが望ましい、としています[7]。残置物の処理を任せる受任者には、これらに加えて賃貸物件を管理する管理業者も挙げられています[7]

契約者が亡くなったあとに、同居していた家族が住み続けられるかどうかは高齢の親の賃貸で契約者が亡くなったとき|残された配偶者は住み続けられるか・名義変更と保証人はどうなるかで解説しています。

保険は起きたあとの費用に備えるもので、発見が遅れること自体は防げません。異変に早く気づける仕組みは、それとは別に用意する必要があります。誰が契約し、費用を誰が払い、通知が誰に届くのかは高齢者の賃貸と見守りサービス|誰が契約し、費用は誰が払い、誰に連絡が届くのかで整理しています。

保険で費用に備えたうえで、親の異変に早く気づける形を用意する——入居の申込みで、大家さんに伝えられる備えの一つにもなります。

保険の満期と更新を忘れないために、家族が確かめておくこと

入居時に入った保険には保険期間があります。先に見たとおり、加入が契約条件になっている部屋では、保険に入っていることを前提に契約を結んでいることになります[1]。親が一人で書類を管理していると、更新の案内を見落とすことがあるので、次の点を家族で共有しておくと安心です。

  • 保険証券の保管場所——契約者・保険期間(満期日)・補償の種類と金額が書かれています
  • 更新の方法——自動で継続されるのか、手続きや保険料の支払いが必要なのか
  • 事故のときの連絡先——保険会社(共済)と管理会社の電話番号
  • 地震保険が付いているか——火災保険だけでは地震による火災は補償されません[5]
  • 入院などで長く部屋を空けるとき——空けている間の水漏れや郵便物のことも含めて管理会社に一報する

入院で部屋を長く空けることになったときの契約と荷物の扱いは、高齢の親が入院したときの賃貸の解約|いつ決めるか・家族が代われるか・荷物はどうするかにまとめています。

まとめ:保険は「家財・大家さん・第三者」の3つに分けて確かめる

  • 火災保険への加入は法令で強制されてはいないが、契約条件になっていれば加入が前提[1]
  • 指定の保険と今の共済が重なるときは、補償内容を比べたうえで仲介会社と相談する[1]
  • 書類は家財・借家人賠償責任・個人賠償責任の3つに分けて、付いているか・いくらまでかを見る[1]
  • 失火責任法は民法第709条の適用を定めた法律で、大家さんとの関係は民法第621条の原状回復義務の話になる[2][3]
  • 令和6年中の住宅火災による死者のうち、65歳以上は75.6%[4]
  • 地震を原因とする火災は火災保険では補償されず、家財の地震保険は火災保険に付けて契約する[5]
  • 亡くなったあとの契約の解除と残置物の処理は、保険とは別に誰に任せるかを決めておく[6][7]

保険の書類は細かく、つい後回しになりがちです。それでも一度3つに分けて確かめておけば、何かあったときに家族が落ち着いて動けます。親御さんの新しい暮らしを、備えのある形で始めてください。

出典
  1. 賃貸借契約の締結に当たって住宅総合保険や火災保険、借家人賠償責任保険への加入を求められた場合、保険の加入が契約条件となっている場合には加入する必要があると考えられること、法令によって強制されているものではないが契約条件として義務づけられている場合は原則としてこれを受け入れることを前提に契約を締結することになること、多くの場合加入が義務づけられているのは住宅総合保険であり建物のほか借主の家財に対しても補償されることが多いこと、借主が水漏れ事故をおこした場合の補償やその事故によって隣人や貸主に損害を与えた場合の損害賠償補償等が含まれることも多いこと、共済保険に加入しているのに不動産仲介会社が指定する保険への加入を求められた場合は加入している共済保険の内容と指定された保険の内容を十分に比較した上で必要性について不動産仲介会社と相談するのが良いと考えられること、最終的に契約は貸主、借主の合意によると考えられること:賃貸借トラブルに係る相談対応研究会『民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)』(令和4年3月、国土交通省掲載、2026年9月16日閲覧)「⑤保険加入」。mlit.go.jp(PDF)
  2. 「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」:『失火ノ責任ニ関スル法律』(明治32年法律第40号)、e-Gov法令検索(2026年9月16日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
  3. 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負い、ただしその損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときはこの限りでないこと:『民法』(明治29年法律第89号)第621条(賃借人の原状回復義務)、e-Gov法令検索(2026年9月16日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
  4. 令和6年中の住宅火災による死者数(放火自殺者等を除く)が1,030人(対前年比7人増)であること、うち65歳以上の高齢者の死者数が779人で全体の75.6%を占めること、年齢階層別の人口10万人当たりの死者数は年齢が高くなるに従って著しく増加し81歳以上の階層では全年齢階層における平均の4.0倍であること、たばこを発火源とした火災による死者数が最多であること、近年の住宅火災による死者に占める65歳以上の割合が7割以上と高水準で推移していること:消防庁『令和7年版 消防白書』第1章第1節「火災予防」(2026年9月16日閲覧)。fdma.go.jp(PDF)
  5. 地震保険の対象は居住の用に供する建物および家財(生活用動産)であること、地震保険は火災保険に付帯する方式での契約となり火災保険への加入が前提となること、火災保険の保険金額の30%〜50%の範囲内で地震保険の保険金額を決めることができ建物は5,000万円・家財は1,000万円が限度であること、火災保険では地震を原因とする火災による損害や地震により延焼・拡大した損害は補償されないこと:財務省『地震保険制度の概要』(2026年9月16日閲覧)。mof.go.jp
  6. 国土交通省及び法務省が、単身の高齢者が死亡した際に契約関係及び残置物を円滑に処理できるように「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定したこと、令和7年10月1日の改正住宅セーフティネット法の施行に伴い居住支援法人の業務に入居者からの委託に基づく残置物処理が追加され、その実施にあたってはモデル契約条項の活用が基本とされていること:国土交通省『残置物の処理等に関するモデル契約条項』(2026年9月16日閲覧)。mlit.go.jp
  7. 解除関係事務委任契約の受任者はまずは賃借人の推定相続人のいずれかとするのが望ましく、推定相続人を受任者とすることが困難な場合には居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のような第三者を受任者とするのが望ましいと考えられること、残置物関係事務委託契約の受任者として推定相続人のいずれか、居住支援法人、居住支援を行う社会福祉法人又は賃貸物件を管理する管理業者のような第三者が考えられること:国土交通省・法務省『残置物の処理等に関するモデル契約条項』本文・解説コメント(2026年9月16日閲覧)。mlit.go.jp(PDF)

出典URLはいずれも2026年9月16日に閲覧し、掲載内容を確認しています。条文は同日時点のe-Gov法令検索の掲載によります。保険・共済の補償の範囲・金額・特約・更新の方法は、商品と契約ごとに異なります。個々の契約内容は保険証券・約款と、保険会社(共済)・管理会社への確認で確かめてください。事故が起きた場合の責任の有無は個別の事情によって判断されます。

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