離れて暮らす親を、自分の近くへ呼び寄せることにした。ところが段取りを考え始めると、「先に新居を決めると家賃が二重になる。先に今の部屋を解約すると、親の住む場所がなくなるかもしれない」という順番の問題で手が止まることがあります。
この記事は、高齢の親の賃貸から賃貸への引っ越しを、子の立場で段取りしようとしている家族に向けて、国土交通省の賃貸住宅標準契約書・標準引越運送約款、国土交通省の調査、民法と住民基本台帳法から、決める順番を整理したものです。先に結論を書くと、今の部屋の解約は、新居の審査に通ってから伝えること、そして家賃が重なる日数は、契約書を見れば事前に見積もれることの2つです。
親が長く住んだ部屋を引き払うのは、家族にとっても大きな節目です。順番さえ決まれば、重なる家賃は「読める出費」に変わります。
親を呼び寄せる引っ越しで、家賃が二重になるのはなぜか
二重家賃は、今の部屋の契約が終わる日と、新居の家賃が発生する日がずれることで生じます。
賃貸の部屋は、解約を伝えた当日に契約が終わるわけではありません。多くの契約書は、借りている側から解約するときに「何日前までに申し入れる」という期間を定めています。一方で新居は、契約を結ぶときに家賃の発生日が決まります。この2つの日付のあいだが、二重に家賃を払う期間です。
一般の引っ越しなら、解約の申し入れと新居探しを並行して進め、日付を寄せればほぼ解消できます。呼び寄せでは、ここにもう一つ事情が加わります。高齢の親の場合、新居の審査がいつ・どう終わるかが読みにくいことです。これが、次の節で扱う「順番」の問題につながります。
賃貸の解約予告は何日前か——契約書のどこを見ればいいのか
国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)は、借主からの解約について、少なくとも30日前に解約の申入れを行うことで解約できるとし、あわせて解約申入れの日から30日分の賃料を支払えば、30日を待たずに随時解約できるとしています(第11条)[1]。
同じ契約書の解説は、具体例を示しています。9月30日に退去するなら、解約申入れは8月31日以前に行う。9月10日に申し入れた場合は、申入れの日から30日分、つまり10月9日までの賃料が必要になる、という例です[1]。
ただし、これは国のひな形の内容です。実際の日数は、親が今結んでいる契約書に書いてあるとおりになります。「解約」「解約の申入れ」「借主からの解約」といった見出しの条項を探し、日数と、申し入れの方法(書面か、電話でよいか)を確かめてください。1か月前ではなく2か月前と定めている契約もあります。
なお、契約期間を定めていない建物の賃貸借では民法が適用され、解約の申入れの日から3か月を経過することで終了します(民法第617条第1項第2号)[2]。長く住んでいて契約書が手元に見当たらないときは、まず管理会社か大家さんに契約内容の写しを頼むところから始めると安心です。
入院や施設入所で部屋を手放す場合の解約の考え方は、高齢の親が入院したときの賃貸の解約|いつ決めるか・家族が代われるか・荷物はどうするかで詳しく整理しています。
解約を伝えるのは、新居の審査に通ってからでいいのか
呼び寄せの引っ越しでは、今の部屋の解約は、新居の入居審査に通り、契約の日取りが見えてから伝える順番をおすすめします。
理由は、高齢の方の入居には慎重な大家さんが少なくないためです。国土交通省の調査(令和3年度・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の会員を対象、回答者数187団体)では、高齢者に対して約7割の賃貸人が拒否感を有しているとされています[3]。申し込んだ部屋の審査が一度で通らず、二件目・三件目を探すことになる可能性は、一般の引っ越しより高めに見込んでおく必要があります。
先に解約を伝えてしまうと、契約の終わる日が決まったまま、次の部屋が決まらない状態になりえます。一度伝えた解約を撤回できるかは貸主の判断によるため、取り消しに応じてもらえるとは限りません。二重家賃は日数で見積もれる出費ですが、住む場所が決まらないまま退去日が来ることは、見積もれないリスクです。
申込みの前に、親の年金収入や保証会社の利用、緊急時の連絡先を誰が引き受けるかを整理しておくと、審査の見通しが立ちやすくなります。契約者を親と子のどちらにするかは高齢の親を近くに呼び寄せて賃貸を借りるとき|契約者は親か子か・審査の進め方・UR近居割と転入の手続きで扱っています。
解約予告を出す前に、親の条件で入れる部屋の見込みを立てる——高齢の方の入居を前提に相談できる窓口なら、申込みの段階から審査の見通しを確かめながら進められます。
新居の入居日(家賃が発生する日)はいつに決めればいいのか
審査に通ると、新居の契約開始日(家賃の発生日)を決める段階になります。ここで考えるのは、今の部屋の解約日から逆算して、どこまで重ねるかです。
重ねる日数をゼロにすると、引っ越しの当日に旧居の退去と新居の入居をすべて済ませることになります。高齢の親の引っ越しでは、次の理由から数日から2週間ほどは、あえて重ねておく家族が少なくありません。
- 荷物の整理に時間がかかる:長く住んだ部屋は物が多く、新居に入りきらない家具の処分や、親と一緒の仕分けに日数が要る
- 子が付き添える日が限られる:遠方の親の引っ越しでは、子が現地に行ける週末に作業を寄せることになる
- 体調に合わせて日程を動かせる:親の体調が崩れたときに、搬出日をずらす余地が残る
新居の家賃発生日をいつにできるかは、物件ごと・大家さんごとに違います。審査の結果を聞いた段階で「家賃の発生日はいつからになりますか」と聞き、今の部屋の解約日と並べて決めると、重なる日数がはっきりします。
二重家賃の期間は何日くらいを見込めばいいのか——日割りでの見積もり方
重なる家賃は、日割りで見積もれます。標準契約書は、1か月に満たない期間の賃料は、1か月を30日として日割計算した額とするとしています(第4条第2項)[1]。解説によると、解約申入れ期間を30日としているのも、この日割りの分母に合わせるためです[1]。
たとえば、今の部屋の家賃が月6万円で、新居の家賃発生日を旧居の解約日の10日前にした場合、重なる旧居の家賃は 6万円 × 10日 ÷ 30日 = 2万円という計算になります(標準契約書の方式で計算した例です)。
ただし、同じ解説は日割りの分母について「各月の実際の日数とすること」と「一律に一定の日数とすること」の2つの方法が考えられるとしており[1]、実際の契約がどちらを採っているか、そもそも日割りの定めがあるかは契約書しだいです。解約の条項と一緒に、「賃料」の条項で日割りの有無と方法を確認しておくと、見積もりのずれを防げます。
退去時の敷金の精算は、二重家賃とは別に動きます。初期費用と敷金の扱いは高齢者の賃貸の初期費用|敷金・礼金・保証委託料はいくらか、年金でどう用意するかを参考にしてください。親が持ち家から移る場合は、家賃と持ち家の費用が重なる期間の考え方が変わるため、持ち家を売って賃貸に住み替える高齢の親|売る前に部屋を決めるか・売ってから探すか、審査と住民票と税の期限で整理しています。
遠方に住む親の賃貸の解約を、子が代わりに伝えられるのか
今の部屋の借主は親です。解約の申入れは、借主である親の意思にもとづいて行うもので、子が親の意思を確かめずに進めることはできません。
そのうえで、親の意思がはっきりしていれば、管理会社への連絡や書類のやり取りを子が手伝うことは、多くの場面で受け入れられています。ただし扱いは管理会社ごとに違い、解約通知書に借主本人の署名を求められることもあります。遠方に住む場合は、最初の電話で次の3点を聞いておくと二度手間になりません。
- 解約の申入れは書面か、電話やメールでもよいか(書面なら書式を郵送してもらえるか)
- 家族が連絡の窓口になってよいか、本人の署名や確認はどの段階で必要か
- 退去の立ち会いと鍵の返却は、家族だけで行ってよいか
親の判断能力に不安がある場合や、入院中で本人と連絡が取りにくい場合の考え方は、前出の入院時の解約の記事で扱っています。
引っ越しの日取りが動いたら——引越し業者のキャンセル料は何日前からかかるのか
高齢の親の引っ越しは、体調や審査の結果で日取りが動くことがあります。引越し業者に依頼したあとで日程を変えるときは、解約・延期の手数料を意識しておくと安心です。
国土交通省が定める標準引越運送約款は、平成30年6月1日施行の改正で、解約・延期手数料を前々日は運賃及び料金の20%以内、前日は30%以内、当日は50%以内に見直しました[4]。
つまり、引っ越しの3日前までに変更を伝えれば、この約款にもとづく解約・延期手数料はかかりません。実際の手数料は、見積もりのときに受け取る約款で確かめてください。新居の契約開始日が確定してから業者の日程を押さえる順番にしておくと、日程が動いたときの負担を抑えられます。
住民票はいつ移すのか——転出届と転入届の期限
市区町村をまたいで呼び寄せる場合、住民票の手続きは2段階です。住民基本台帳法は、転出をする者は、あらかじめ転出先と転出の予定年月日を届け出ること(第24条)、転入をした者は、転入をした日から14日以内に届け出ること(第22条)を定めています[5]。
段取りに落とすと、旧住所の役所で転出届を出してから引っ越し、新住所で住み始めてから14日以内に転入届を出す順番です。転出届は引っ越し前に出すものなので、遠方の親の場合は、子が付き添える日に合わせて役所の手続きも一緒に済ませておくと、あとで往復せずに済みます。介護保険の認定を引き継ぐ手続きの期限は、前出の呼び寄せの記事で扱っています。
引っ越したあとの最初の数週間、親の様子をどう見るか
呼び寄せが終わると、家族はほっとします。けれども親にとっては、新しい部屋・新しい街・新しい買い物先や病院に一度に慣れていく時期です。近くに住んでいても、仕事や自分の家庭があれば毎日は訪ねられません。
引っ越し直後の数週間は、親の生活のリズムが整うまで、様子が家族に届く形を用意しておくと、子の側も落ち着いて見守れます。見守りの仕組みを誰が契約し、費用を誰が払い、通知が誰に届くのかは高齢者の賃貸と見守りサービス|誰が契約し、費用は誰が払い、誰に連絡が届くのかで整理しています。
新居での毎日の様子が、離れていても家族に届く形にしておく——入居の申込みのときに、大家さんへ伝えられる備えの一つにもなります。
まとめ:解約は「審査が通ってから」、重なる家賃は「日割りで読む」
- 解約予告の日数は今の契約書の「解約」の条項で決まる。標準契約書は30日前、または30日分の賃料で随時解約[1]。期間の定めがなければ民法で3か月[2]
- 高齢者に対して約7割の賃貸人が拒否感(令和3年度・国土交通省調査・187団体)[3]。今の部屋の解約は、新居の審査に通ってから伝える
- 重なる家賃は、標準契約書の方式なら1か月を30日とした日割りで見積もれる[1]。実際の方式は「賃料」の条項で確認する
- 荷物の整理や付き添いの都合で、数日から2週間ほど重ねる選択肢もある
- 引越し業者の解約・延期手数料は前々日20%以内・前日30%以内・当日50%以内(標準引越運送約款)[4]
- 転出届は引っ越し前、転入届は転入から14日以内[5]
呼び寄せの引っ越しは、順番を一つ決めるたびに、見えなかった不安が「日付」と「金額」に置き換わっていきます。審査・解約・入居日・業者・役所の順に並べていけば、親の新しい暮らしは落ち着いて始められます。住み替え全体の進め方は高齢の親の住み替え|家族が知っておく賃貸の進め方も参考にしてください。
- 第4条第2項「1か月に満たない期間の賃料は、1か月を 30 日として日割計算した額とする。」、第11条(乙からの解約)が借主は少なくとも30日前に解約の申入れを行うことにより解約でき、解約申入れの日から30日分の賃料(及び賃料相当額)を支払えば随時に解約できるとしていること、その解説で「解約申入れ期間を 30 日としたのは、第4条及び第5条の賃料及び共益費の日割計算の分母を 30 日としていることにあわせるためである」とされていること、および「9月 30 日に退去を予定している場合は、解約申入れを8月 31 日以前に行う」「9月 10 日に解約申入れを行った場合は、解約申入れを行った日から 30 日分の賃料、つまり 10 月9日までの賃料(及び賃料相当額)が必要となる」とする例、第4条【第2項】の解説で「日割計算の際の分母については、「各月の実際の日数とすること」と「一律に一定の日数とすること」の2つの方法が考えられる」とされていること:国土交通省『賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・家賃債務保証業者型)』(2026年9月19日閲覧)。mlit.go.jp(PDF)
- 第617条第1項「当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。」同項第2号「建物の賃貸借 三箇月」:e-Gov法令検索『民法』(明治二十九年法律第八十九号、2026年9月19日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
- 住宅確保要配慮者の入居に対する賃貸人(大家等)の意識として「高齢者に対して約7割が拒否感」、入居制限を行う「最も該当する理由」は高齢者の場合「居室内での死亡事故等に対する不安」が約9割とされていること〔出典:令和3年度国土交通省調査/(公財)日本賃貸住宅管理協会の賃貸住宅管理業に携わる会員を対象にアンケート調査を実施(回答者数:187団体)〕:国土交通省「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討状況について(資料2)」(2026年9月19日閲覧)。mlit.go.jp(PDF)
- 標準引越運送約款等の改正で、解約・延期手数料を「当日 運賃の20%以内 ⇒ 運賃及び料金の50%以内」「前日 運賃の10%以内 ⇒ 運賃及び料金の30%以内」「前々日 - ⇒ 運賃及び料金の20%以内」に見直したこと、改正告示の施行が平成30年6月1日であること:国土交通省 報道発表資料『引越運送業の契約のルールが変わります!』(2026年9月19日閲覧)。mlit.go.jp
- 第22条第1項「転入(中略)をした者は、転入をした日から十四日以内に、次に掲げる事項(中略)を市町村長に届け出なければならない。」、第24条「転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。」:e-Gov法令検索『住民基本台帳法』(昭和四十二年法律第八十一号、2026年9月19日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
出典URLはいずれも2026年9月19日に閲覧し、掲載内容を確認しています。条文は同日時点のe-Gov法令検索の掲載によります。解約予告の日数・日割りの方法・家賃の発生日は、物件ごとの契約書と大家さん・管理会社の判断によって決まります。引越し業者の手数料は、各事業者が示す約款で確認してください。
親御さんの呼び寄せ・住み替えのご相談
離れて暮らす親を、自分の近くへ呼び寄せたい——。今の部屋の解約をいつ伝えるか、親の年齢や収入で入れる部屋があるかなどの事情を先に伺ったうえで、高齢の方の入居に前向きな窓口におつなぎします。今の部屋の解約をまだ伝えていない段階でもご相談いただけます。