一人になった親が、広すぎる一戸建てや階段のある家を手放して、駅や病院に近い賃貸に移りたいと言い出した。家族としては賛成でも、話を進めようとするとすぐに迷います。「家を売ってから部屋を探すのか、部屋を決めてから家を売るのか」「売れる前に賃貸の審査は通るのか」「住民票はいつ移すのか」「税金の期限はあるのか」——順番を間違えると、家賃と家の維持費が重なったり、住む場所が決まらないまま引渡しの日が来たりします。
この記事は、持ち家に住む高齢の親の住み替えを手伝っている家族に向けて、売却と賃貸契約の順番と、そのあいだに気をつける住所・税・審査のことを、総務省・国税庁の資料と法律の条文をもとに整理したものです。先に結論を書くと、どちらを先にするかは「親が二重の出費に耐えられるか」と「売却がいつ決まりそうか」の2点で決まり、どちらを選んでも住民票と税の期限は同じチェックリストで確かめられます。
なお、家が売れる金額や売れるまでの期間、賃貸の審査の基準は、地域・物件・会社ごとに異なります。この記事は特定の進め方を勧めるものではなく、家族で話し合うときに確かめる順番を知っていただくためのものです。
持ち家から賃貸へ住み替える高齢者は少なくないのか
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、高齢者のいる世帯の81.6%が持ち家に住んでいます。主世帯全体の持ち家の割合(60.9%)より20.7ポイント高い水準です[1]。一方で、高齢単身世帯では借家に住む割合が32.2%と、高齢者のいる世帯全体(18.2%)より高くなっています[1]。
高齢の親が持ち家に住んでいるのはごく普通のことで、一人暮らしになったあとに住まいの形を見直すのも自然な流れです。住み替えの目的の決め方や家族での進め方の全体像は高齢の親の住み替え|家族が知っておく賃貸の進め方で解説しています。この記事では、そのうち「持ち家を売る」ことが絡む部分に絞って見ていきます。
持ち家を売る前に賃貸を決めるか、売ってから探すか——2つの順番の違い
進め方は大きく2つに分かれます。どちらにも向き・不向きがあるので、まず表で並べてみます。
| 先に賃貸を決めて、あとで売る | 先に売って、あとで賃貸を探す | |
|---|---|---|
| 住む場所 | 引越し先が決まってから動けるので、親の生活が途切れない | 引渡しの日までに次の部屋が決まらないと、仮の住まいが必要になる |
| お金 | 売れるまでの間、家賃と持ち家の維持費(固定資産税など)が重なる | 売却代金が入ってから部屋を借りられるので、二重の出費が短い |
| 審査 | 売却代金がまだ手元にない状態で申し込む | 売却代金を預貯金として示せる |
| 家の片付け | 空き家になってから片付けや内覧の対応ができる | 住みながら内覧に対応し、引渡しまでに片付ける |
| 向いている場面 | 体調や階段の問題で、早く移ることが優先のとき | 貯蓄が少なく、家賃を二重に払う余裕がないとき |
高齢の親の場合、「今の家での暮らしがもう限界に近いかどうか」が決め手になることが多いはずです。転倒が続いている、通院が負担になっているといった事情があるなら、先に部屋を決める側に寄せて考え、二重の出費をどこまで許せるかを家族で見積もります。
売る前に賃貸を決めるとき、家賃と持ち家の費用が重なる期間をどう見積もるか
先に部屋を決める場合、いちばんの不安は「家がいつ売れるか分からない」ことです。売却を不動産会社に頼むときは媒介契約を結びますが、宅地建物取引業法は、ほかの会社に重ねて依頼することを禁じる専任媒介契約の有効期間を3か月以内と定めています(依頼者の申出で更新できますが、更新のときから3か月を超えることはできません)[2]。また、専任媒介契約を結んだ会社は、2週間に1回以上(専属専任媒介契約では1週間に1回以上)、業務の処理状況を依頼者に報告しなければならないとされています[2]。
法律が売れるまでの期間を決めているわけではありませんが、「3か月ごとに状況を見直す」という区切りは、家族が二重の出費を見積もるときの目安として使えます。たとえば次のように書き出すと、親の預貯金でどこまで持ちこたえられるかが見えてきます。
- 毎月かかるもの——新しい部屋の家賃・共益費、持ち家の光熱費の基本料金、管理費(マンションの場合)
- 年単位でかかるもの——持ち家の固定資産税(後の節で説明します)、火災保険
- 一度にかかるもの——賃貸の初期費用、引越し費用、家の片付けの費用
賃貸の初期費用の内訳と年金での用意の仕方は高齢者の賃貸の初期費用|敷金・礼金・保証委託料はいくらか、年金でどう用意するかにまとめています。売却後の住まいとして公営住宅も検討する場合の申込みの条件と待ち時間は、高齢の親が公営住宅に当たらないとき|単身で申し込める条件・収入基準・倍率と、待つあいだの住まいで整理しています。親が持ち家ではなく賃貸から移る場合の、今の部屋の解約を伝える時期と家賃が重なる期間の見積もり方は、親を呼び寄せる引っ越しで家賃を二重に払わないために|今の賃貸の解約はいつ伝えるか・新居の審査と入居日の決め方で解説しています。
売却の見通しを伝えたうえで、先に親の部屋を相談する——R65不動産では、持ち家の売却と賃貸への住み替えをまとめて相談することもできます。家がまだ売れていない段階でもご相談いただけます。
家を売ってから賃貸を探すとき、引渡しまでに部屋が決まらなかったらどうするか
先に売る場合は、売買契約で決める引渡しの日が、親が今の家を出なければならない期限になります。この日までに次の部屋の契約と引越しを終える必要があるため、売買契約を結ぶ前から部屋探しを始めておくのが安全です。
高齢の方の部屋探しは、条件に合う物件が見つかっても審査で時間がかかることがあります。断られやすい理由と、申込みの前にできる準備は高齢者が賃貸を断られる理由と対策|シニアが部屋を借りるための5つの準備で解説しています。
それでも間に合わないときは、引渡しの日を後ろにずらせないかを売買契約の前に買主側と話し合う、子どもの家に一時的に身を寄せる、といった選択肢を検討します。一時的に身を寄せる期間が長くなりそうなら、住民票をどうするかも次の節の考え方で確かめてください。
売却代金が入る前でも、賃貸の審査は通るのか
先に部屋を決める場合、申込みの時点では売却代金はまだ入っていません。審査では、年金の額や今ある預貯金、保証会社を使えるかどうか、緊急連絡先を誰にするかといった点を、大家さんや保証会社がそれぞれの基準で見ます。「近く家を売る予定がある」こと自体は収入の証明にはならないため、今ある預貯金と年金で家賃を払い続けられることを、書類で示せるように準備しておくことが基本になります。
年金だけの収入で保証会社の審査がどう見られるか、預貯金がどう扱われるかは年金収入だけで家賃保証会社の審査は通る?見られる点と落ちたときの選択肢で、申込書のどの欄に何を書き、預貯金をどこまで示すかは高齢者の賃貸の申込書と必要書類|年金の証明・本人確認・緊急連絡先の欄をどう埋めるかで詳しく説明しています。
売却の予定を伝えるかどうかは、仲介会社と相談して決めてください。売却の媒介契約を結んでいる、査定を受けているといった事実は、親の住み替えが計画的に進んでいることを伝える材料として話せる場合があります。
家を売ったら税金はかかるのか——3,000万円特別控除と「住まなくなってから」の期限
自宅を売って利益(譲渡所得)が出たときは、所得税の対象になります。国税庁によると、マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があります[3]。
住み替えで気をつけたいのは、先に賃貸へ引っ越してから家を売る場合です。この特例の対象には、以前に住んでいた家屋も含まれますが、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限られます[3]。空き家になった実家の売却が長引くと、この期限を過ぎてしまうおそれがあります。
ほかにも、家族が知っておきたい要件があります[3]。
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に売ったものでないこと——生計を一にする親族や、売った家で同居する親族なども含まれます。子どもが親の家を買い取る場合は、この特例は使えません
- 売った年の前年・前々年にこの特例などを受けていないこと
- 一定の書類を添えて確定申告をすること——控除で税額が0円になる場合も、特例を受けるには申告が必要です
実際に税額がどうなるか、ほかの特例とどちらが有利かは、個別の事情で変わります。売却の前に、所轄の税務署や税理士に確認してください。
住民票はいつ移すのか——転入届の期限と、売却の申告で必要になる書類
住民基本台帳法は、新しい市区町村に住所を定めた人は、転入をした日から14日以内に転入届を出すこと、同じ市区町村の中で住所を変えた人は転居をした日から14日以内に転居届を出すことを定めています[4]。賃貸に引っ越して生活の拠点を移したら、この期限内に届け出るのが原則です。
先に引っ越してから家を売る場合は、売買契約のときに親の住民票の住所と、売る家の所在地が違う状態になります。国税庁は、売買契約日の前日に住民票に記載されていた住所とマイホームの所在地が異なる場合などには、戸籍の附票の写し、消除された戸籍の附票の写しその他これに類する書類で、そのマイホームに住んでいたことを明らかにするものを確定申告書に添えて提出するよう案内しています[3]。
つまり、住民票を移すこと自体は特例の妨げにはなりませんが、申告のときに「以前ここに住んでいた」ことを示す書類が1つ増えるということです。子どもの家に一時的に身を寄せる場合に住所をどう扱うかは、住んでいる実態によって判断が分かれるため、市区町村の窓口に確認してください。遠方の子どもの近くに呼び寄せる場合の転入の手続きは高齢の親を近くに呼び寄せて賃貸を借りるとき|契約者は親か子か・審査の進め方・UR近居割と転入の手続きで扱っています。
持ち家を売った年の固定資産税は誰が払うのか
総務省によると、固定資産税は土地・家屋などの固定資産を所有している個人・法人が納税義務者となり、賦課期日(1月1日)時点の評価にもとづいて課税標準額が決まります[5]。税額などが書かれた納税通知書は、市町村から納税義務者に送付され、原則として年4回の納期に分けて納めます[5]。
固定資産税は、その年の1月1日(賦課期日)に登記簿に所有者として登記されている人に、その年度の分が課されます[6]。先に賃貸へ移って売却に時間がかかり、1月1日の時点で所有権移転の登記がまだ親の名義のままであれば、その年度の納税通知書は親に届きます。年内に売買契約を結んでいても、決済と登記が年明けになれば同じです。前の節で見た「家賃と持ち家の費用が重なる期間」を見積もるときは、この税も入れておきます。年の途中で売った場合に、売主と買主の間でその年の税をどう精算するかは、売買契約書の条項で確かめてください。
持ち家から賃貸へ移る前に、家族で決めておくこと
ここまでの内容を、家族で話し合うときのチェックリストにまとめます。
- 順番——先に部屋を決めるか、先に売るか。決め手は親の体の状態と、二重の出費に耐えられる月数
- 売却の区切り——媒介契約の期間(専任媒介なら3か月以内)ごとに、売り出す金額や進め方を見直す日を決めておく[2]
- 審査の準備——売却代金が入る前に申し込むなら、年金と今ある預貯金で示せる書類をそろえる
- 税の期限——先に引っ越すなら、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日を、カレンダーに書いておく[3]
- 住所——引っ越したら14日以内に届出。売却の申告で戸籍の附票が要る場合があることを覚えておく[3][4]
- 固定資産税——1月1日時点で登記がまだ親の名義なら、その年度の税も見積もりに入れる[6]
- 誰が手続きをするか——内覧の立ち会い、売買契約、賃貸の申込み、役所の届出を、親と家族のどちらが担うか
一人暮らしを始める親の、入居後の暮らしの備えについては高齢者の賃貸と見守りサービス|誰が契約し、費用は誰が払い、誰に連絡が届くのかも参考にしてください。
まとめ:持ち家の売却と賃貸契約は「順番」と「期限」で考える
- 高齢者のいる世帯の81.6%は持ち家に住んでおり、高齢単身世帯では借家の割合が32.2%(令和5年)[1]
- 先に部屋を決めると生活は途切れないが、家賃と持ち家の費用が重なる。先に売ると出費は抑えられるが、引渡しの日が期限になる
- 専任媒介契約の有効期間は3か月以内で、見直しの区切りとして使える[2]
- 売却代金が入る前の審査は、年金と今ある預貯金で家賃を払い続けられることを示す
- 3,000万円特別控除は、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があり、親子間の売買は対象外。確定申告が必要[3]
- 転入届・転居届は14日以内。住民票の住所と売った家が違うときは戸籍の附票などを申告に添える[3][4]
- 固定資産税は1月1日に登記簿上の所有者である人に課税され、納税通知書が届く[5][6]
長く住んだ家を手放すのは、親にとっても家族にとっても大きな決断です。それでも順番と期限を先に紙に書き出しておけば、迷う場面はぐっと減ります。親御さんが次の住まいで安心して暮らし始められるよう、一つずつ進めてください。
- 高齢者のいる世帯が居住する住宅の所有の関係別の割合は持ち家が81.6%、借家が18.2%で、主世帯全体の持ち家の割合(60.9%)に比べ持ち家の割合が20.7ポイント高いこと、高齢単身世帯では借家の割合が32.2%(持ち家67.5%)であること:総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要』(2023年10月1日現在、2026年9月17日閲覧)。stat.go.jp(PDF)
- 依頼者が他の宅地建物取引業者に重ねて売買又は交換の媒介又は代理を依頼することを禁ずる媒介契約(専任媒介契約)の有効期間は三月を超えることができないこと、有効期間は依頼者の申出により更新できるが更新の時から三月を超えることができないこと、専任媒介契約を締結した宅地建物取引業者は依頼者に対し業務の処理状況を二週間に一回以上(依頼者が当該業者が探索した相手方以外の者と契約を締結することができない旨の特約を含む専任媒介契約にあっては一週間に一回以上)報告しなければならないこと:『宅地建物取引業法』(昭和27年法律第176号)第34条の2第3項・第4項・第9項、e-Gov法令検索(2026年9月17日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
- マイホーム(居住用財産)を売ったときは所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があること、以前に住んでいた家屋は住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限られること、売った年の前年および前々年にこの特例等の適用を受けていないこと、親子や夫婦など「特別の関係がある人」(生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族等を含む)に対して売ったものでないこと、適用を受けるためには一定の書類を添えて確定申告をすることが必要であること、マイホームの売買契約日の前日においてそのマイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合などには戸籍の附票の写し等でそのマイホームを居住の用に供していたことを明らかにするものを併せて提出すること:国税庁 タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」(令和8年4月1日現在法令等、2026年9月17日閲覧)。nta.go.jp
- 転入(新たに市町村の区域内に住所を定めること)をした者は転入をした日から十四日以内に市町村長に届け出なければならないこと(第22条)、転居(一の市町村の区域内において住所を変更すること)をした者は転居をした日から十四日以内に市町村長に届け出なければならないこと(第23条):『住民基本台帳法』(昭和42年法律第81号)第22条・第23条、e-Gov法令検索(2026年9月17日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
- 固定資産を所有している個人・法人が納税義務者になること、賦課期日(1月1日)時点の評価に基づいて課税標準額が決まること、課税標準額・税率・税額・納期等が記載された納税通知書が市町村から納税義務者に対して送付され、原則として年に4回の納期に分けて納税すること:総務省『固定資産税』(2026年9月17日閲覧)。soumu.go.jp
- 固定資産税は固定資産の所有者に課すること、土地・家屋の所有者とは登記簿又は土地補充課税台帳・家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者をいうこと(第343条第1項・第2項)、固定資産税の賦課期日は当該年度の初日の属する年の1月1日であること(第359条):『地方税法』(昭和25年法律第226号)第343条・第359条、e-Gov法令検索(2026年9月17日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
出典URLはいずれも2026年9月17日に閲覧し、掲載内容を確認しています。条文は同日時点のe-Gov法令検索の掲載によります。税の特例の適用の可否と税額は個別の事情によって異なります。売却前に所轄の税務署や税理士にご確認ください。住民票の扱いは住んでいる実態によって判断されるため、市区町村の窓口でご確認ください。家が売れる金額・売却までの期間、賃貸の審査基準は、地域・物件・会社ごとに異なります。
持ち家からの住み替えのご相談
親御さんの家を売るか迷っている、売れる前に部屋を決めたい、年金と預貯金で借りられる部屋があるか知りたい——。売却の見通しや今の暮らしで困っていることを先に伺ったうえで、高齢の方の入居に前向きな窓口におつなぎします。家がまだ売れていない段階でもご相談いただけます。