地方で一人暮らしをしている親の、通院や買い物が心配になってきた。自分の住む街の近くに呼び寄せたい——そう決めて部屋を探し始めると、早い段階で「契約者は親御さんですか、お子さんですか」と聞かれ、手が止まることがあります。
この記事は、離れて暮らす高齢の親を自分の住む地域の賃貸へ呼び寄せようとしている家族に向けて、国土交通省の賃貸住宅標準契約書、UR都市機構の近居割、介護保険法・住民基本台帳法の条文から、決める順番を整理したものです。先に骨だけ書くと、契約者は「審査に通すための工夫」ではなく「誰が住み、誰が家賃を払い続けるか」で決めること、そして近くに住んでも、親の異変に気づく仕組みは別に用意することの2つです。
なお、「親の名義なら借りられる」「子の名義なら通る」とは言えません。条件は物件ごと・大家さんごとに異なります。そのうえで、話を前に進めやすくする準備を見ていきます。
高齢の親を呼び寄せるとき、賃貸の契約者は親と子のどちらにするのか
賃貸の契約者(借主)は、家賃を払う義務を負い、契約書に名前が載る人です。国土交通省の賃貸住宅標準契約書は、契約書の冒頭(頭書)の(5)に「借主及び同居人」の欄を置き、借主と、一緒に住む人(同居人)の氏名・年齢を書き分ける形になっています[2]。つまり契約書は、「契約する人」と「住む人」を分けて書く作りです。
呼び寄せの場面で考えられる形は、大きく次の2つです。
| 親が契約者(借主) | 子が契約者(借主) | |
|---|---|---|
| 家賃を払う義務 | 親 | 子 |
| 審査で主に見られる収入 | 親の年金・預貯金 | 子の収入 |
| 子の立場 | 緊急時の連絡先・連帯保証人など、支える側 | 契約の当事者そのもの |
| 確かめること | 年齢や収入で申込みが止まらないか | 住むのが親だけであることを大家さんが認めるか |
実際に住み続けるのが親なら、まず親を借主にし、子は緊急時の連絡先や保証の側で支える形を検討するのが、契約書の作りに沿った考え方です。子の名義を検討するのは、親の収入だけでは家賃の支払いが続かず、子が長く家賃を払っていく前提がはっきりしている場合に絞ったほうが、後で困りにくくなります。
親の名義で借りるとき、年金収入の審査で子ができること
親を借主にする場合、審査では親の年金収入や預貯金が見られます。年金だけの収入で家賃債務保証会社の審査がどう見られるかは年金収入だけで家賃保証会社の審査は通る?見られる点と落ちたときの選択肢にまとめています。
ここで、近くに住む子がいること自体が、伝えられる材料になります。標準契約書の作成にあたっての注意点は、緊急時の連絡先について、借主に連絡を取ることのほか「借主の急病・急変、安否確認や漏水等への対応を依頼すること」も想定されるとしています[2]。遠方の親族よりも、呼び寄せ先の近くに住む子のほうが、この役割を現実に引き受けやすいはずです。申込みのときは「子が○分の距離に住んでいて、緊急時の連絡先になる」と具体的に伝えてください。
連帯保証人を求められた場合に、子がどこまで負うことになるのかは高齢の親の賃貸で連帯保証人を頼まれたとき|極度額はどこまでか・断ったらどうなるか・代わりの手段で、申込書の欄の埋め方は高齢者の賃貸の申込書と必要書類|年金の証明・本人確認・緊急連絡先の欄をどう埋めるかで整理しています。
子の名義で借りて親が住むとき、契約書のどこに注意するのか
子を借主にして親だけが住む形を考えるときは、契約書の2つの条文を確かめてください。
- 使用目的(第3条):標準契約書は「乙は、居住のみを目的として本物件を使用しなければならない。」と定め、その解説は使用目的を「(自己の)居住」のみに限っていると説明しています[2]。借主本人が住まず親だけが住む形は、標準的な契約書が想定している形とは異なります
- 転貸の禁止(第8条第1項):借主は貸主の書面による承諾を得ることなく、物件の全部又は一部について賃借権を譲渡し、又は転貸してはならない、とされています[2]
ですから、住む人を伏せて子の名義で申し込むのは避けてください。後から契約上の問題として扱われるおそれがあり、何より親が安心して住み続けられなくなります。申込みの段階で「契約者は子、住むのは親」と伝え、大家さん・管理会社がその形を認めるか、認めるなら契約書や特約にどう書くかを確認しておくと安心です。
また、子が借主になると、家賃の支払いも、退去時の原状回復も、解約の手続きも子の義務になります。親が入院や施設入所をしたときに部屋をどうするかも、借主である子が判断することになります。
同居ではなく近居にするとき、子の家からの距離はどう決めるか
「いっそ自分の部屋で一緒に住む」という選択肢もあります。その場合は、標準契約書では頭書(5)に記載する同居人に新たな同居人を追加すること(出生を除く)が、貸主に通知しなければならない行為とされています(第8条第5項・別表第3第一号)[2]。今の契約書で扱いを確かめてから動いてください。
同居ではなく近くに別の部屋を借りる(近居)なら、距離は「近いほどよい」とは限りません。次の順で考えると決めやすくなります。
- 親の通院先に通いやすいか——転居に合わせてかかりつけ医を移すのか、今の病院に通い続けるのか
- 子が仕事帰りや休日に無理なく寄れるか——毎日ではなく、続けられる頻度で考える
- 親が一人で買い物や散歩に出られるか——駅や店までの坂・階段、建物のエレベーターの有無
- 急な連絡に何分で駆けつけられるか——申込みのときに伝える「緊急時の連絡先」の説得力にもつながる
候補の建物で、入口からエレベーター、部屋の中の段差までを内見でどう確かめるかは高齢の親の賃貸、内見で何をチェックするか|段差・階段・エレベーターと浴室・トイレの見方にまとめています。
UR賃貸の近居割とは——親を近くに呼び寄せるときの条件
近居を考えるなら、UR都市機構の「近居割」「近居割WIDE」の条件を一度確かめておく価値があります。UR都市機構の案内では、条件を満たした場合、新たに入居するUR賃貸住宅の募集家賃が5年間5%減額されます[3]。
- 近居の形:同じ団地に二世帯が近居/半径2km以内の別の団地に二世帯が近居(URどうし)、または近居割WIDEエリア内でURとUR以外の住宅に二世帯が近居[3]
- 親族の範囲:直系血族、兄弟姉妹または現に扶養義務を負っている3親等以内の親族で、近居するどちらかが条件に当てはまること。「高齢者世帯」は満60歳以上の方を含む世帯とされています[3]
- 注意点:同居の場合は適用されないこと、毎年度審査があること、詳しくは各店舗へ問い合わせることが明記されています[3]
対象になる団地や近居割WIDEのエリアは限られているので、子の住まいの近くに対象の団地があるかを、UR公式サイトの診断で先に確かめてください。家賃以外に入居時にかかるお金の考え方は高齢者の賃貸の初期費用|敷金・礼金・保証委託料はいくらか、年金でどう用意するかで解説しています。入居時に加入を求められる火災保険(家財保険)が何に備えるものかは高齢の親の賃貸で入る火災保険(家財保険)|加入は義務か・何を補償するか・孤独死や地震のときはどうなるかにまとめています。
なお、UR賃貸住宅はR65不動産を通じて申し込むこともできます。その場合は、URの団地と、子の住まいの近くにある一般の賃貸物件を並行して探せるので、近居割の対象団地に空きがないときも、ほかの候補とあわせて検討できます。
URの団地と近くの賃貸を、親の条件で並行して探す——親の年齢・収入と、近くに住む家族の支え方を先に伝えたうえで相談できます。
遠方から親を呼び寄せたら、住民票と要介護認定の手続きはどうなるのか
市区町村をまたいで引っ越すときは、住民票の手続きに期限があります。住民基本台帳法は、転出する人はあらかじめ転出届を出し(第24条)、転入した人は転入をした日から14日以内に転入届を出す(第22条)と定めています[5]。
親が要介護・要支援の認定を受けている場合は、とくに注意が必要です。介護保険法第36条は、他の市町村で認定を受けている人が転入先の市町村の被保険者となった場合に、資格を取得した日から14日以内に、前の市町村から交付された認定に係る事項を証明する書面を添えて申請すれば、認定審査会の審査・判定を経ることなく、その書面の内容に即して認定をすることができると定めています[4]。
つまり、引っ越す前に、今の市町村で認定の内容を証明する書面を受け取っておき、転入したら早めに申請するのが大切です。14日を過ぎると、認定を一から受け直す手間が生じかねません。担当のケアマネジャーや介護サービスの事業所は、転居先の地域で探し直す必要が出てくることもあるので、今の担当者に早めに相談しておくと引き継ぎがなめらかになります。親が住んでいた持ち家を売ってから呼び寄せる場合の、売却と賃貸契約の順番や税の期限は持ち家を売って賃貸に住み替える高齢の親|売る前に部屋を決めるか・売ってから探すか、審査と住民票と税の期限で解説しています。親が今賃貸に住んでいる場合の、解約を伝える時期と新居の入居日の決め方は、親を呼び寄せる引っ越しで家賃を二重に払わないために|今の賃貸の解約はいつ伝えるか・新居の審査と入居日の決め方で整理しています。
近くに住んでも毎日は行けない——親の異変に誰が気づくのか
呼び寄せたあとも、親が一人暮らしであることは変わりません。内閣府の高齢社会白書によると、65歳以上の男女それぞれの人口に占める一人暮らしの者の割合は、令和2年に男性15.0%、女性22.1%です[1]。
近くに住んでいても、仕事や自分の家庭があれば毎日は訪ねられません。「近くにいるから大丈夫」と思っていた間に、数日連絡が取れていなかったということは起こりえます。緊急時の連絡先を引き受けるなら、異変があったときに子へ知らせが届く形を、住み始める前に決めておくと安心です。
見守りの仕組みを誰が契約し、費用を誰が払い、通知が誰に届くのかは高齢者の賃貸と見守りサービス|誰が契約し、費用は誰が払い、誰に連絡が届くのかで整理しています。
近居でも毎日の様子が家族に届く形にしておく——申込みのときに、大家さんへ伝えられる備えの一つにもなります。
まとめ:「誰が住み、誰が払うか」から順に決める
- 契約書は「借主」と「同居人」を書き分ける作り。住み続けるのが親なら、まず親を借主にする形から検討する[2]
- 近くに住む子は、急病・急変や安否確認への対応も想定される「緊急時の連絡先」として、申込み時に具体的に伝える[2]
- 子の名義で親だけが住む形は、使用目的(自己の居住)と転貸の禁止に関わる。住む人を伏せずに伝え、認められるか確認する[2]
- UR賃貸の近居割は、条件を満たせば新たに入居する住宅の募集家賃が5年間5%減額。同居には適用されない[3]
- 転入届は転入から14日以内。要介護認定は14日以内に証明書を添えて申請すれば引き継げる[4][5]
- 近居でも、異変が家族に届く形は別に決めておく(65歳以上の一人暮らしの割合は令和2年に男性15.0%・女性22.1%[1])
親を呼び寄せるのは、離れていた距離を縮めて、これからの暮らしを一緒に支えていくための選択です。契約者・距離・手続き・見守りの順に一つずつ決めていけば、部屋探しは落ち着いて進められます。住み替え全体の進め方は高齢の親の住み替え|家族が知っておく賃貸の進め方も参考にしてください。
- 「65歳以上の一人暮らしの者は男女ともに増加しており、昭和55年には65歳以上の男女それぞれの人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%であったが、令和2年には男性15.0%、女性22.1%となり」とされていること:内閣府『令和7年版高齢社会白書(全体版)』第1章第1節3「家族と世帯」(2026年9月14日閲覧)。cao.go.jp
- 頭書(5)「借主及び同居人」に借主・同居人の氏名・年齢と合計人数、緊急時の連絡先を記載する欄があること、作成にあたっての注意点で緊急時の連絡先について「借主に連絡を取ることのほか、借主の急病・急変、安否確認や漏水等への対応を依頼することも想定される」とされていること、第3条「乙は、居住のみを目的として本物件を使用しなければならない。」とその解説で「使用目的を「(自己の)居住」のみに限っている」とされていること、第8条第1項「乙は、甲の書面による承諾を得ることなく、本物件の全部又は一部につき、賃借権を譲渡し、又は転貸してはならない。」、第8条第5項・別表第3第一号「頭書(5)に記載する同居人に新たな同居人を追加(出生を除く。)すること。」:国土交通省『賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)』(2026年9月14日閲覧)。mlit.go.jp(PDF)
- 条件を満たした場合「5年間募集家賃から5%減額」されること、近居要件(同じ団地に二世帯が近居/半径2km以内の別の団地に二世帯が近居/近居割WIDEエリア内で二世帯が近居)、世帯要件(直系血族、兄弟姉妹または現に扶養義務を負っている3親等以内の親族で、近居するどちらかが条件に当てはまる場合は「新たに入居するUR賃貸住宅に近居割・近居割WIDEが適用されます」)、「「高齢者世帯」満60歳以上の方を含む世帯です。」、「同居の場合は、本制度の適用はされません。」「毎年度審査があります。」「詳しくは各店舗までお問い合わせください。」とされていること:UR都市機構『近居割|便利な制度|UR賃貸住宅』(2026年9月14日閲覧)。ur-net.go.jp
- 第36条(住所移転後の要介護認定及び要支援認定)「市町村は、他の市町村による要介護認定又は要支援認定を受けている者が当該市町村の行う介護保険の被保険者となった場合において、当該被保険者が、その資格を取得した日から十四日以内に、当該他の市町村から交付された当該要介護認定又は要支援認定に係る事項を証明する書面を添えて、要介護認定又は要支援認定の申請をしたときは、(中略)認定審査会の審査及び判定を経ることなく、当該書面に記載されている事項に即して、要介護認定又は要支援認定をすることができる。」:e-Gov法令検索『介護保険法』(平成九年法律第百二十三号、2026年9月14日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
- 第22条第1項「転入(中略)をした者は、転入をした日から十四日以内に、次に掲げる事項(中略)を市町村長に届け出なければならない。」、第24条「転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。」:e-Gov法令検索『住民基本台帳法』(昭和四十二年法律第八十一号、2026年9月14日閲覧)。laws.e-gov.go.jp
出典URLはいずれも2026年9月14日に閲覧し、掲載内容を確認しています。条文は同日時点のe-Gov法令検索の掲載によります。近居割の対象団地・エリア・適用条件は変更されることがあるため、申込み前にUR都市機構の店舗で確認してください。契約者・同居人の扱いや特約の内容は、物件ごとの契約書と大家さん・管理会社の判断によって決まります。
親御さんの呼び寄せ・近居のご相談
離れて暮らす親を、自分の住む地域の近くに呼び寄せたい——。親の年齢や収入、契約者を誰にするか、近くに住むご家族の支え方などの事情を先に伺ったうえで、高齢の方の入居に前向きな窓口におつなぎします。まだ呼び寄せを決めていない段階でもご相談いただけます。