高齢の親の賃貸、内見で何をチェックするか|段差・階段・エレベーターと浴室・トイレの見方

最近、親が階段の上り下りでひと息つくようになった。住み替え先を探し始めたけれど、「2階でも大丈夫か」「エレベーターは必須か」「段差はどこまで気にすればいいのか」が決められず、物件情報を見比べるだけで時間が過ぎていく——そんなご家族は少なくありません。

この記事は、足腰が弱ってきた高齢の親の住み替え先を探している家族に向けて、東京消防庁・消費者庁の事故データと、国土交通省の「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」の数値を物差しにして、内見で見る場所を順番に整理したものです。先に骨だけ書くと、「バリアフリー」という表示だけで決めず、建物の入口から浴室まで、親が毎日通る道すじを実際に歩いて確かめることです。

なお、この指針は住宅を設計するときの配慮事項を示したもので、今ある賃貸住宅がすべてこの数値を満たしているわけではありません。「満たしていない部屋は住めない」という意味ではなく、どこに差があるかを知ったうえで選ぶための物差しとして使ってください。

高齢の親の住まい探しで、段差や階段を条件にしたほうがいい理由

東京消防庁の救急搬送データによると、東京消防庁管内(稲城市・島しょ地区を除く東京都)で、令和6年中に「ころぶ」事故で救急搬送された高齢者(65歳以上)は73,500人でした[1]。発生場所は「住宅等居住場所」が最も多く、その42,180人のうち屋内での発生が39,053人と9割以上を占めています[1]

住宅等居住場所の中で「ころぶ」事故が多かった場所は、次の順でした[1]

順位発生場所救急搬送人員(令和6年中)
1位居室・寝室29,783人
2位玄関・勝手口等3,900人
3位廊下・縁側・通路2,653人
4位トイレ・洗面所1,229人
5位台所・調理場・ダイニング・食堂1,079人

また、「ころぶ」に次いで多い「落ちる」事故は令和6年に8,719人が救急搬送されており、事故原因は「階段」が4,240人で最も多くなっています[1]

消費者庁にも、医療機関ネットワーク事業を通じて、65歳以上の高齢者が自宅で転倒した事故情報が平成27年4月から令和2年3月末までに275件寄せられ、高齢者の転倒事故を発生場所別に見ると自宅が48%で最も多いと公表されています[2]。発生場所が分かっている事例では「浴室・脱衣所」「庭・駐車場」「ベッド・布団」「玄関・勝手口」「階段」が多く、骨折した場合は要入院が76%でした[2]

つまり、毎日の暮らしの動線にある段差・階段・浴室は、住まい選びの段階で見ておく価値があるということです。入居後に手すりを付けることもできますが、賃貸では大家さんの承諾が要ります(手続きは高齢の親の賃貸に手すりを付けたいとき|大家さんの承諾・介護保険の住宅改修・退去時の原状回復で解説しています)。最初から段差の少ない部屋を選べれば、その手間を減らせます。

「バリアフリー」と書かれた賃貸でも、内見で確かめたいこと

物件情報の「バリアフリー」は、どこまでの配慮を指しているかが物件ごとに異なります。部屋の中の段差はないけれど建物の入口に階段がある、エレベーターはあるけれど浴室の出入口に段差がある、ということもありえます。

そこで物差しになるのが、国土交通省の「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号)です。この指針は、加齢等によって身体の機能が低下しても高齢者がそのまま住み続けられるよう、住宅の設計上の配慮事項を示したもので、多くの項目で「基本レベル」と「推奨レベル」を分けています[3]

内見で「表示どおりか」を見るより、親が毎日通る道すじを、建物の外から順に歩いてみるほうが見落としが減ります。次の節から、その順番で見る場所を挙げます。

何階に住むか——1階・エレベーター付き・階段のみ、どう選ぶか

階数を決めるときは、「何階か」よりも「建物の出入口から部屋の玄関まで、階段を使わずに行けるか」で考えると整理しやすくなります。

  • 1階(建物の出入口と同じ階):エレベーターを待たずに出入りできます。ただし、建物の入口や部屋の玄関の前に数段の階段があることもあるので、「1階=段差なし」とは限りません
  • 2階以上でエレベーターあり:指針の基本レベルは、各住戸からエレベーター(または1階分に限った共用階段)で建物出入口の階まで行けること、そして建物出入口からエレベーターホールまでの経路の床が段差のない構造であることを求めています[3]。エレベーターがあっても、入口からそこまでに段があるなら、その段を毎日越えることになります
  • 2階以上で階段のみ:いまは上り下りできても、通院や買い物の荷物、体調を崩したときのことを考えて決めてください。指針は、エレベーターを利用できない階からの共用階段について有効幅員900mm以上を基本レベルとしています[3]

また、指針の推奨レベルは、玄関・便所・浴室・食事室などを寝室と同じ階にまとめることを挙げています[3]。メゾネット(部屋の中に階段がある間取り)は、この点で親の暮らしに合うかを慎重に考えたい間取りです。

内見で見る場所①:建物の入口からエレベーターまで

部屋に入る前の、共用部分から見ていきます。指針の数値は次のとおりです[3]

見る場所指針の基本レベル(抜粋)内見で確かめること
建物出入口〜エレベーターホール経路の床が段差のない構造。高低差がある場合は傾斜路(勾配1/12以下等)と手すり入口の数段の階段、スロープの有無と手すり
エレベーター出入口の有効な幅員800mm以上、ホールに一辺1,500mmの正方形の空間杖や歩行器、車いすで乗り降りできそうか
共用廊下床が段差のない構造、少なくとも片側に床から700〜900mmの高さの手すり(出入口などやむを得ない部分を除く)部屋の前までの段差、つかまる場所
共用階段少なくとも片側に、踏面の先端から700〜900mmの高さの手すり手すりの有無、足元の暗さ

指針は、アプローチや共用部分の照明が十分な照度を確保できること、床の仕上げが滑りやつまずきに配慮したものであることも挙げています[3]。昼間の内見では気づきにくいので、夜の廊下や階段の明るさを管理会社に聞いておくと安心です。

内見で見る場所②:玄関・廊下・トイレ・浴室の段差と手すり

部屋の中は、寝室からトイレまで、玄関から居間までと、親が毎日通る順に歩いてみてください。指針の基本レベルの主な数値は次のとおりです[3]

  • 床の段差:日常生活空間の床は段差のない構造(5mm以下の段差を含む)。ただし玄関の上がりかまちの段差などは例外とされています
  • 玄関の出入口:くつずりと玄関外側の高低差は20mm以下、くつずりと玄関土間の高低差は5mm以下
  • 浴室の出入口:20mm以下の単純段差、または浴室内外の高低差120mm以下・またぎ高さ180mm以下で手すりを設置
  • 手すり:便所に立ち座りのためのもの、浴室に浴槽出入りのためのものが設けられていること。玄関(上がりかまちの昇降や靴の着脱のため)と脱衣所(衣服の着脱のため)は設置できるようになっていること
  • 通路と出入口の幅:通路の有効な幅員780mm(柱等の箇所は750mm)以上、出入口の幅員750mm(浴室は600mm)以上

内見にメジャーを持っていき、浴室の出入口の段差と浴槽のまたぎの高さ、トイレと浴室の手すりの有無を測っておくと、候補どうしを比べやすくなります。手すりを「設置できるようになっている」かどうか(壁に下地があるか)は見た目では分からないので、管理会社に確認してください。

ほかにも指針は、便器が腰掛け式であること、照明が安全上必要な箇所に設置されていること、通報装置ができる限り便所と浴室に設けられていることを基本レベルに挙げています[3]

条件を全部満たす部屋が見つからないとき、何から優先するか

段差がない・エレベーターがある・浴室が広い、をすべて満たす賃貸は、家賃や立地の条件と合わせるとなかなか見つかりません。そのときの優先順位の考え方として、国土交通省の「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン」が参考になります。

このガイドラインは持ち家の戸建住宅を主な対象としていますが、賃貸住宅なども含めて全ての住宅に援用できるとしています[4]。配慮すべき8項目のうち、特に重要と考えられる項目として次の4つを挙げています[4]

  • 温熱環境:居室と非居室の間で過度な温度差を生じさせない
  • 外出のしやすさ:玄関や勝手口から道路まで安心して移動できる
  • トイレ・浴室の利用のしやすさ:寝室からトイレまで行きやすい
  • 日常生活空間の合理化:日常的な生活空間を同じ階にまとめる

同ガイドラインは、厚生労働省の人口動態調査で、平成29年時点の65歳以上の家庭内の死亡事故は11,879人(うち溺死5,508人)で、交通事故による死者数2,883人を上回っていることにも触れています[4]。段差だけでなく、冬の浴室や脱衣所が寒くないかも内見で見ておきたい点です。

部屋の中の手すりは入居後に承諾を得て付けられることがありますが、建物の入口の階段やエレベーターの有無は入居後には変えられません。迷ったら、後から変えられない共用部分と階数を先に決め、部屋の中の手すりは後から相談する、という順で考えると絞り込みやすくなります。住み替え全体の段取りは高齢の親の住み替え|家族が知っておく賃貸の進め方にまとめています。階段のある持ち家を売って段差の少ない賃貸へ移る場合の進め方は持ち家を売って賃貸に住み替える高齢の親|売る前に部屋を決めるか・売ってから探すか、審査と住民票と税の期限で整理しています。

段差・階数・エレベーターの条件を伝えて物件を探す——親の足腰の状態や、譲れない条件と後から相談できる条件を先に伝えたうえで相談できます。

部屋を選んでも残る「転んだとき誰が気づくか」

段差の少ない部屋を選んでも、転ぶ危険がなくなるわけではありません。先に見たとおり、高齢者の「ころぶ」事故で最も多い発生場所は居室・寝室でした[1]。消費者庁の事例にも、夜間にベッドからポータブルトイレへ移る際に転倒し、足の痛みで動けなくなって朝まで改善しなかった例が挙げられています[2]

親が一人暮らしなら、転んで動けなくなったときに、家族へ知らせが届く形を住み始める前に決めておくと安心です。指針が通報装置を便所と浴室に求めているのも、この場面を想定したものと読めます[3]。見守りの仕組みを誰が契約し、費用を誰が払い、通知が誰に届くのかは高齢者の賃貸と見守りサービス|誰が契約し、費用は誰が払い、誰に連絡が届くのかで整理しています。

転んで動けないときに、家族へ知らせが届く形を用意しておく——入居の申込みで、大家さんに伝えられる備えの一つにもなります。

まとめ:後から変えられない場所から順に見る

  • 令和6年中、高齢者の「ころぶ」事故は住宅等居住場所で最も多く、その9割以上が屋内[1]。「落ちる」事故の原因は階段が最多[1]
  • 自宅での転倒は浴室・脱衣所、玄関・勝手口、階段などで起きており、骨折すると要入院が76%[2]
  • 「バリアフリー」の表示だけで決めず、建物の入口→エレベーター→共用廊下→玄関→寝室からトイレ→浴室の順に歩いて確かめる[3]
  • 物差しは国交省の設計指針。建物出入口からエレベーターホールまで段差なし、エレベーター出入口800mm以上、浴室出入口20mm以下の段差、便所と浴室の手すりなど[3]
  • 全部そろわなければ、温熱環境・外出のしやすさ・トイレと浴室・生活空間を同じ階にの4つを優先し、後から変えられない共用部分と階数を先に決める[4]
  • 部屋を選んでも、転んだときに家族へ知らせが届く形は別に用意しておく

内見で見る場所が決まっていれば、物件情報の見比べで迷う時間は減ります。親の毎日の動線を思い浮かべながら一つずつ確かめていけば、長く住み続けやすい部屋に近づけます。断られないための準備全体は高齢者が賃貸を断られる理由と対策|シニアが部屋を借りるための5つの準備も参考にしてください。

出典
  1. 東京消防庁管内(東京都のうち稲城市、島しょ地区を除く地域)で、令和6年中に「ころぶ」事故により73,500人の高齢者(65歳以上)が救急搬送されたこと、発生場所は「住宅等居住場所」が最も多く、その42,180人のうち屋内での発生が39,053人で9割以上を占めること、住宅等居住場所における「ころぶ」事故の発生場所上位5つ(居室・寝室29,783人、玄関・勝手口等3,900人、廊下・縁側・通路2,653人、トイレ・洗面所1,229人、台所・調理場・ダイニング・食堂1,079人)、「落ちる」事故による救急搬送が令和6年に8,719人で、事故原因は「階段」4,240人が最も多いこと:東京消防庁『救急搬送データからみる高齢者の事故』(2026年3月5日更新、2026年9月15日閲覧)。tfd.metro.tokyo.lg.jp
  2. 医療機関ネットワーク事業を通じて、65歳以上の高齢者が自宅で転倒したという事故情報が平成27年4月から令和2年3月末までに275件寄せられ、高齢者の転倒事故を発生場所別に見たとき最も多く48%を占めること、発生場所として浴室・脱衣所、庭・駐車場、ベッド・布団、玄関・勝手口、階段が多いこと、骨折をした場合は要入院となる高齢者が76%に上ること、夜間にベッドからポータブルトイレへ移動の際に転倒した事例:消費者庁『10月10日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう!-転倒事故の約半数が住み慣れた自宅で発生しています-』(令和2年10月8日公表、2026年9月15日閲覧)。caa.go.jp
  3. 加齢等に伴って身体の機能の低下が生じた場合にも高齢者がそのまま住み続けることができるよう一般的な住宅の設計上の配慮事項を示すものであること、基本レベルと推奨レベル、専用部分の段差(日常生活空間内の床は5mm以下の段差を含む段差のない構造、玄関の出入口はくつずりと玄関外側の高低差20mm以下・くつずりと玄関土間の高低差5mm以下、浴室の出入口は20mm以下の単純段差又は浴室内外の高低差120mm以下・またぎ高さ180mm以下で手すりを設置)、手すり(便所の立ち座り用・浴室の浴槽出入り用を設置、玄関・脱衣所は設置できるようになっていること)、通路の有効な幅員780mm(柱等の箇所750mm)以上・出入口の幅員750mm(浴室600mm)以上、推奨レベルで玄関・便所・浴室・食事室等が特定寝室の存する階にあること、腰掛け式便器・照明・通報装置、共用廊下(段差のない構造、少なくとも片側に700〜900mmの手すり)、共用階段(手すり、エレベーターを利用できない階からの有効幅員900mm以上)、エレベーター(建物出入口の存する階まで到達できること、出入口の有効な幅員800mm以上、ホールに一辺1,500mmの正方形の空間、建物出入口からエレベーターホールまでの経路上の床が段差のない構造)、アプローチ等の床の仕上げと照明設備:国土交通省『高齢者が居住する住宅の設計に係る指針』(平成13年8月6日国土交通省告示第1301号、2026年9月15日閲覧)。mlit.go.jp
  4. 持ち家の戸建住宅を主な対象としつつ、マンションや賃貸住宅等の建て方・所有関係を問わず全ての住宅において援用できるとされていること、配慮すべき重要項目8つのうち特に重要と考えられる項目として①温熱環境②外出のしやすさ③トイレ・浴室の利用のしやすさ④日常生活空間の合理化の4つを設定していること、厚生労働省の「人口動態調査」によると平成29(2017)年時点で65歳以上の高齢者の家庭内の死亡事故は11,879人、そのうち溺死が5,508人であり、交通事故による死者数2,883人を上回っているとされていること:国土交通省『高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン』(2026年9月15日閲覧)。mlit.go.jp(PDF)

出典URLはいずれも2026年9月15日に閲覧し、掲載内容を確認しています。東京消防庁のデータは東京消防庁管内の救急搬送人員で、全国の値ではありません。設計指針の数値は住宅の設計上の配慮事項であり、既存の賃貸住宅がこれを満たしていることを示すものではありません。個々の物件の段差や設備、手すりの設置の可否は、内見と大家さん・管理会社への確認で確かめてください。

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