「雪かきと坂道がつらくなってきたので、長野市の平坦なところへ移りたい」「山あいの家を離れて、松本の病院の近くで暮らしたい」——長野県にお住まいの方からのご相談には、こうした県内での住み替えが目立ちます。年齢を理由にオーナーが慎重になる場面があるのは事実です。ただ長野県では、それと同じくらい「空き家は多いのに、募集に出ている部屋は多くない」という前提が効いてきます。この記事では、公的統計と県が公表している窓口の情報をもとに、長野県での探し方(借り方の順番)を整理します。
長野の住宅は一戸建73.4%・共同住宅23.9%——まず賃貸の母数を知る
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』の基本集計(確報)によると、長野県の総住宅数は2023年10月1日現在で104万0千戸、2018年の100万8千戸から3.1%増えました[1]。全国の増加率4.2%をやや下回り、住宅が増えるペースは緩やかです[1]。
大切なのは中身です。人が住んでいる住宅82万5千戸のうち、一戸建は60万5千戸で73.4%、共同住宅(アパート・マンション)は19万7千戸で23.9%にとどまります[1]。全国は一戸建52.7%・共同住宅44.9%ですから、長野県は共同住宅の割合が全国より21ポイントほど低いことになります[1]。持ち家住宅率も71.7%と、全国の60.9%を大きく上回ります[1]。
住まいの4軒に3軒が一戸建てで、その多くが持ち家——それが長野県の標準です。裏を返せば、アパート・マンションとして貸しに出ている住戸は県内に19万7千戸しかありません[1]。「希望を伝えれば候補が何十件も出てくる」という都市部の探し方は、この県では最初からかみ合いません。候補が少ないことを前提に、早めに動き、範囲を広めに取るのが現実的です。共同住宅が57.4%を占める大阪市で高齢者が賃貸を借りるには|窓口のある市から探す進め方や、持ち家住宅率52.7%で借家が選ばれやすい福岡県で高齢者・シニアが賃貸を探すには?探し方と備えとは、探し始めの前提がかなり違います。同じ中部で持ち家率の高い新潟県で高齢者が賃貸を借りるには|持ち家率全国4位の県で、貸家をどう探すかは、長野県に近い条件の県といえます。
空き家率20.1%は全国でも高い。それでも「借りられる部屋」とは限らない
長野県の空き家率は2023年で20.1%、全国の13.8%を6ポイント以上上回ります[1]。空き家数は20万9千戸です[1]。速報集計でみると長野県は20.0%で、和歌山県・徳島県の21.2%、山梨県20.5%、鹿児島県20.4%、高知県20.3%に次ぐ、全国で6番目に高い水準でした[2]。「県内に20万戸も空いているなら、1戸くらいすぐ借りられるはず」と考えたくなる数字です。ところが内訳を追うと、印象は反転します。
この調査は空き家を用途で分けており、賃貸・売却用および二次的住宅(別荘など)を除いた空き家率は8.9%にとどまります[1]。全国の5.9%より高いものの、20.1%の半分以下です[1]。この調査でいう「二次的住宅(別荘)」とは、週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用され、ふだんは人が住んでいない住宅を指します[2]。軽井沢・蓼科・白馬をはじめ保養地が県内各地にある長野県では、この区分に当たる住宅が空き家の数を押し上げている面があります。別荘は借り手に回ってきませんし、転勤や入院で長く不在になっている家、建て替え待ちの家も同じです。空き家率の高さは、ただちに部屋の選びやすさにはつながりません。
なお5年前との比較では、長野県の空き家率は速報集計で2018年19.6%→2023年20.0%と上昇しています[2]。賃貸・売却用および二次的住宅を除く空き家率も8.4%→8.9%と上がりました[2]。全国も13.6%→13.8%と上昇しており[2]、この点では全国と同じ向きです。同じ調査でも公表の段階によって値がわずかに動き、長野県の空き家率は速報集計20.0%・確報集計20.1%と0.1ポイント違います[1]。この記事では、県内の建て方や持ち家の割合は確報集計、5年前との比較は速報集計と、版を分けて使っています。
高齢化率32.9%——2050年には世帯主の51.9%が65歳以上に
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、長野県の総人口は198万7千人、うち65歳以上は65万4千人で、高齢化率は32.9%(令和6年=2024年)です[3]。75歳以上は38万5千人、割合は19.4%です[3]。全国の高齢化率29.3%を3.6ポイント上回ります[4]。令和32年(2050年)には41.6%まで上がると見込まれ、2024年からの伸びは8.7ポイントです[3]。
住まい探しにより直結するのは、人口ではなく世帯の姿です。国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2024年推計)によると、長野県で世帯主が65歳以上の世帯が一般世帯全体に占める割合は、2020年の43.0%から2050年には51.9%へ上がると見込まれています[5]。全国は37.6%から45.7%で、2050年に50%を超えるのは21県とされており、長野県はその一つです[5]。
世帯主の半数以上が65歳以上になる県で、「高齢だから貸しにくい」を貫くのは、オーナー側にとっても現実的ではありません。長野県ではすでに、高齢の入居希望者に日常的に向き合っている不動産会社や大家さんが各地にいます。断られることを前提に身構えるより、話が通りやすい相手をどう見つけるかに時間を使うほうが、結果につながりやすい環境です。
世帯数は2030年まで増える。増え続けるのは75歳以上のひとり暮らし
同じ推計では、長野県の一般世帯総数は2020年の83万世帯から2030年に85万3千世帯まで増え、そこから減少に転じて2050年に74万8千世帯(2020年比9.9%減)になると見込まれています[5]。人口が減っても、世帯が分かれれば住まいは必要になるためです。世帯主が65歳以上の世帯の総数も、2020年の35万7千世帯から2040年に40万1千世帯まで増え、2050年は38万8千世帯と見込まれています[5]。
増える中身が住まい探しに直結します。世帯主が75歳以上の単独世帯は、2020年の6万1千世帯から2050年には10万世帯へ増える見通しです[5]。30年で1.6倍という伸びです。冬に雪が積もる地域では、ひとり暮らしの高齢世帯が増えることは、除雪や外出のしづらさとも重なります。オーナーが気にするのは「万一のとき、誰がいつ気づくか」という一点です。ここに具体的な答えを一つ用意しておくだけで、面談の空気は変わります。安否が離れた家族に伝わる仕組みはR65見守りで確認できます。年金収入から無理のない家賃を先に決めておく考え方は、年金暮らしの家賃の目安|手取りから逆算する住まいの選び方で解説しています。
北信・東信・中信・南信——県内でも条件が大きく変わる
長野県は南北に長く、四方を山に囲まれた盆地がいくつも連なる県です。県内のどこを選ぶかで、賃貸の探し方はかなり変わります。
北信(長野市・須坂市・中野市・飯山市など)は、善光寺平(長野盆地)に人口が集まり、県内で最も部屋の選択肢が多いエリアのひとつです。長野駅には北陸新幹線と篠ノ井線・信越本線が乗り入れ、長野電鉄長野線が須坂・小布施・湯田中方面へ延びています。通院や買い物を車に頼らずに済ませたい方には、この沿線や長野駅周辺が候補になりやすいところです。
中信(松本市・塩尻市・安曇野市・大町市など)は松本盆地が中心で、松本駅を篠ノ井線・大糸線・中央本線とアルピコ交通上高地線が結びます。松本市は医療機関が集まり、県内他地域からの住み替え先として選ばれることの多い都市です。東信(上田市・佐久市・小諸市・軽井沢町など)は北陸新幹線の上田駅・佐久平駅としなの鉄道、上田電鉄別所線が生活の足になります。南信(諏訪・伊那・飯田)は諏訪湖周辺と伊那谷に沿って中央本線・飯田線が走り、まちが細長く分かれています。
共通して意識したいのが、冬と車です。県内の多くの地域で積雪と冷え込みがあり、除雪や坂道の負担は年齢とともに重くなります。移動も車が前提になりやすいため、免許を返納したあとの生活を考えるなら、バス路線や病院・スーパーとの距離を先に確認しておく価値があります。県内の移動距離が長い点では、静岡県で高齢者・シニアが賃貸を借りるには|東西に長い県の探し方と似た事情があります。「どの盆地で暮らすか」を先に決めてから物件を見る——長野県ではこの順番が、いちばん遠回りを減らします。山あいから平地へ移る住み替えという点では、隣県の事情をまとめた岐阜県でシニアが賃貸を探すコツ|共同住宅23.5%・持ち家73.7%の県での借り方も似た構図です。
不動産会社を訪ねる前に用意しておく3つの答え
ひとつめは誰が保証するのかへの答えです。子どもが県外に出ていて頼みにくい、という声は長野県では珍しくありませんが、家賃保証会社を使えば手立てはあります(「保証人不要」と書かれた募集でも、実際は保証会社の審査を受ける形がほとんどです)。仕組みと費用の目安は保証人がいない高齢者の賃貸|家賃保証会社の使い方と選び方でご確認ください。
ふたつめは家賃を払い続けられるのかへの答えです。年金額のわかる書類、預貯金の残高、資産の有無を、口で説明するのではなく紙で見せられるようにしておくと、審査の場面が短く済みます。持ち家住宅率が71.7%の長野県では[1]、いま住んでいる家を売る、あるいは貸すことと住み替えがセットになる方が多く、その場合はお金が入る時期と契約の時期がずれないよう先に段取りを組むことが要点になります。
みっつめはひとりで倒れたらどうなるのかへの答えです。近所に住む親族、かかりつけ医、介護保険で入っているサービス、見守りの仕組み——どれか一つでも名前を挙げて説明できると、オーナーの心配は漠然としたものではなくなります。離れて暮らすご家族が動く場合の進め方は高齢の親の住み替え|家族が知っておく賃貸の進め方にまとめています。
長野県の窓口——3つの協議会、登録は県・長野市・松本市、そして「すまい探し協力店」
ここまでは自分で整える話でしたが、公的な後押しもあります。国土交通省の住宅セーフティネット制度は、高齢者を「住宅確保要配慮者」と位置づけたうえで、入居を拒まない住宅を登録する仕組み(セーフティネット住宅)、入居後の生活を支える事業者を指定する仕組み(居住支援法人)、行政と不動産業界と福祉をつなぐ場(居住支援協議会)の3階建てになっています[6]。長野県ではこの3つが、それぞれ別の窓口で運用されています。
国土交通省が公表している居住支援協議会の連絡先一覧(令和8年6月30日時点・全国192協議会)によると、長野県内には長野県(建設部建築住宅課・電話026-235-7339)、長野市(長野市建設部住宅課・電話026-224-5424)、南佐久居住支援協議会(小海町、川上村、南牧村、南相木村、北相木村の5町村・電話0267-92-4107)の3つが掲載されています[7]。南佐久の協議会は5つの町村が共同で設けているもので、山あいの町村にお住まいでも地元に窓口があるということです[7]。まずは県の協議会に連絡し、長野市・南佐久の方は地元の窓口もあわせて確認する、という順序が使いやすいでしょう。
登録窓口には長野県ならではの分かれ目があります。県のページによると、セーフティネット住宅の登録は長野県が行い、長野市・松本市に所在する住宅についてはそれぞれの市が登録を行っています[8]。県内人口の多くがこの2市に関わることを考えると、多くの方に関係する区分です。県内の居住支援法人は12団体が指定されており、一覧は県のページに掲載されています(2026年5月14日時点の掲載内容)[8]。県建築住宅課の電話は026-235-7319です[8]。
もう一つ、長野県には「長野県すまい探し協力店」という仕組みがあります。長野県居住支援協議会(事務局=長野県)が実施しているもので、高齢者を含む住宅確保要配慮者から電話または来店で相談があったときに、寄り添った窓口対応と、居住に関する支援サービスの説明・情報提供を行う宅地建物取引業者を登録する制度です[9]。登録番号・協力店名・所在地・電話番号の一覧が県のページで公開されており、2026年8月21日時点の掲載では56号までの登録があります[9]。お住まいの市町村に近い協力店から当たってみるのが、長野県では実際的な進め方です。
まとめ:長野は「空き家の多さと部屋の多さを分けて考える」
長野県で高齢者・シニアが賃貸を探すときの要点は3つです。第一に、共同住宅23.9%・持ち家住宅率71.7%という構成から、募集に出ている部屋の母数がもともと厚くないと知っておくこと[1]。第二に、空き家率20.1%という数字を、別荘等を除くと8.9%になる内訳とあわせて読み、空き家の多さを選択肢の多さと取り違えないこと[1]。第三に、保証・お金・暮らしの支えを整えたうえで、県か長野市か南佐久の協議会、そして「すまい探し協力店」という、長野県で用意されている入口に当たることです[7][9]。
高齢化がすでに進み、2050年には世帯主の半数超が65歳以上になると見込まれる長野県では、高齢の方の入居は特別なことではありません[5]。数は多くなくても、条件を整えて順に当たれば、住み替えられる部屋にはたどり着けます。何から始めればよいか迷われたら、お住まいの地域を教えていただければ、そこから一緒に考えます。
- 長野県の総住宅数104万0千戸・2018年100万8千戸から3.1%増、空き家数20万9千戸・空き家率20.1%、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家9万2千戸・8.9%、居住世帯のある住宅82万5千戸・一戸建60万5千戸(73.4%)・共同住宅19万7千戸(23.9%)・持ち家59万2千戸・持ち家住宅率71.7%、全国の総住宅数6504万7千戸・増加率4.2%・空き家率13.8%・賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率5.9%・一戸建52.7%・共同住宅44.9%・持ち家住宅率60.9%(いずれも2023年10月1日現在)、速報集計と確報集計で長野県の空き家率が20.0%→20.1%と変わったこと:総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要』(付表 都道府県別の主な指標、参考2 速報集計と確報集計の関係)。stat.go.jp(PDF)
- 長野県の空き家率 2023年20.0%・2018年19.6%、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率 2023年8.9%・2018年8.4%、全国の空き家率 2023年13.8%・2018年13.6%、空き家率の高い都道府県(和歌山県及び徳島県21.2%、山梨県20.5%、鹿児島県20.4%、高知県20.3%)、「二次的住宅(別荘)」の定義(週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用される住宅で、ふだんは人が住んでいない住宅):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果』(表2、用語の解説)。stat.go.jp(PDF)
- 長野県の総人口198万7千人・65歳以上人口65万4千人・75歳以上人口38万5千人・65歳以上人口割合32.9%・75歳以上人口割合19.4%(令和6年=2024年)、令和32年(2050年)の65歳以上人口割合41.6%・高齢化率の伸び8.7ポイント:内閣府『令和7年版高齢社会白書』第1章第1節「地域別に見た高齢化」表1-1-10。cao.go.jp
- 全国の総人口1億2,380万人・65歳以上人口3,624万人・高齢化率29.3%(令和6年10月1日現在):内閣府『令和7年版高齢社会白書』第1章第1節「高齢化の現状と将来像」。cao.go.jp
- 長野県の一般世帯総数 2020年83万世帯→2030年85万3千世帯→2050年74万8千世帯(2020年比9.9%減)、一般世帯総数に占める世帯主65歳以上の世帯の割合 2020年43.0%→2050年51.9%(全国は37.6%→45.7%、2050年に50%を超えるのは21県)、世帯主65歳以上の世帯総数 2020年35万7千世帯→2040年40万1千世帯→2050年38万8千世帯、世帯主75歳以上の単独世帯 2020年6万1千世帯→2050年10万世帯:国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2024年推計・2024年11月公表)概要 表Ⅱ-1・表Ⅱ-8・表Ⅱ-9・表Ⅱ-16-1。ipss.go.jp(PDF)
- セーフティネット住宅・居住支援法人・居住支援協議会の仕組み、住宅確保要配慮者に高齢者が含まれること:国土交通省『住宅セーフティネット制度』。mlit.go.jp
- 居住支援協議会の連絡先一覧に長野県内として長野県(建設部建築住宅課・電話026-235-7339)、長野県長野市(長野市建設部住宅課・電話026-224-5424)、長野県南佐久(小海町、川上村、南牧村、南相木村、北相木村/南佐久居住支援協議会・電話0267-92-4107)の3件が掲載されていること、全国192協議会(令和8年6月30日時点):国土交通省『住宅確保要配慮者居住支援協議会について』掲載の連絡先一覧。mlit.go.jp(PDF)
- セーフティネット住宅の登録を長野県(長野市・松本市に所在する住宅についてはそれぞれの市)が行っていること、県内の居住支援法人の指定が12団体であること、県建設部建築住宅課の電話番号026-235-7319(2026年5月14日更新の掲載内容):長野県『新たな住宅セーフティネット制度について』。pref.nagano.lg.jp
- 「長野県すまい探し協力店」を長野県居住支援協議会(事務局=長野県)が実施していること、住宅確保要配慮者から電話または来店による相談があった場合に寄り添った窓口対応と居住に関する支援サービスの説明・情報提供を行う宅地建物取引業者を登録する制度であること、登録番号・協力店名・所在地・電話番号の一覧が公開され56号までの登録があること(2026年8月21日更新の掲載内容):長野県『長野県すまい探し協力店について』。pref.nagano.lg.jp