高齢の親が生活保護を受けている、あるいはこれから申請する。そのうえで住まいを移す必要が出てきたとき、真っ先に不安になるのは「生活保護だと貸してもらえないのではないか」という点だと思います。
結論から言えば、生活保護を受けていること自体は賃貸契約を妨げません。むしろ、家賃が公費から支給されるうえに、条件によっては自治体が大家へ直接支払うしくみまであります。ただし、上限額や手続きを知らないまま部屋を決めてしまうと、あとから話がこじれます。この記事では、公的資料で確認できる範囲を整理します。
生活保護でも賃貸は借りられるのか
生活保護には8種類の扶助があり、そのうち家賃にあたるのが住宅扶助です。厚生労働省は住宅扶助について「定められた範囲内で実費を支給」と説明しています[1]。つまり、決められた枠のなかであれば家賃は実費で出ます。
制度の側に「生活保護受給者には貸してはならない」といった定めはありません。断られるとすれば、それは制度ではなく大家や保証会社の判断によるものです。裏を返せば、その判断材料をこちらから整えれば話は動きます。
なお、保護を受けるには前提として、資産の活用(「預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却等し生活費に充ててください」)、能力の活用、他制度の活用、扶養義務者の扶養が求められます[1]。相談・申請の窓口は福祉事務所で、「市(区)部では市(区)が、町村部では都道府県が設置しています」[1]。
住宅扶助の上限はいくらか
住宅扶助の上限額はお住まいの地域(級地)と世帯人数で決まります。埼玉県が公表している住宅扶助基準額を例に挙げると、次のとおりです[2]。
- 1級地:1人 47,700円/2人 57,000円/3〜5人 62,000円
- 2級地:1人 43,000円/2人 52,000円/3〜5人 56,000円
- 3級地:1人 37,000円/2人 44,000円/3〜5人 48,000円
これは平成27年7月からの基準額で、級地区分は平成30年4月1日現在のものとして示されています[2]。金額も級地区分も自治体によって異なるため、実際の上限は担当のケースワーカーに確認してください。上の数字は「単身なら4万円前後が目安になる地域が多い」という感覚をつかむためのものです。
部屋探しでは、この上限を先に押さえてから物件を見るのが鉄則です。上限を知らずに内見を重ねると、気に入った部屋が対象外だったという結末になりがちです。年金と保護費を合わせた家計から家賃をどう見るかは、年金暮らしの家賃の目安|手取りから逆算する住まいの選び方もあわせてご覧ください。
上限を超える家賃の部屋は借りられないのか
原則は上限内ですが、例外の枠があります。埼玉県の資料では、特別基準額として「住宅扶助基準額の1.3倍額」の範囲内で、福祉事務所が「真にやむを得ないと認めるもの」について適用されると示されています[2]。
ここで大切なのは、この判断をするのは福祉事務所であって、不動産会社でも大家でもないという点です。「1.3倍まで出るはずだ」と物件を先に決めてから相談すると、認められなかったときに手付けや申込みが宙に浮きます。上限を超える部屋を検討する場合は、申し込む前にケースワーカーへ相談してください。
また、上限を超えた分を家族が補填する形は、収入認定や扶養の扱いに関わるため自己判断で決めないほうが安全です。ここも事前相談の対象になります。
引っ越しにかかる一時的な費用はどうなるのか
ここまでの住宅扶助は毎月の家賃に対するものです。これとは別に、入居時に一度だけかかる費用(敷金等)や、転居そのものにかかる費用は別の枠組みで扱われます。厚生労働省の実施要領は、被保護者が転居に際して敷金等を必要とする場合について「オに定める特別基準額以内の家賃又は間代を必要とする住居に転居するときは、オに定める特別基準額に3を乗じて得た額の範囲内において特別基準の設定があったものとして必要な額を認定して差しつかえない」と定めています[6]。
ただし、これは自動的に出るものではありません。実施要領は「近い将来保護の廃止が予想され、その後に転居することをもって足りる者については、この限りでない」とも定めており、転居の必要性そのものが審査の対象になります[6]。荷造り・運搬にかかる費用についても、被保護者が転居する場合で「真にやむを得ないとき」に限り、「実施機関が事前に承認した必要最小限度の額」が認定されるとされています[6]。「事前に」という順番が重要で、業者に依頼したり支払ったりした後からの申請では認められません。
金額も条件も個別の事情によって変わるため、ここで一律の額を示すことはできません。引っ越しの予定が具体的になる前に、担当のケースワーカーへ「敷金等の特別基準と、転居費用の対象になるか」を確認しておくと、後から業者への支払い済み費用が認定されないといった行き違いを避けられます。
代理納付とは:家賃が自治体から大家へ直接支払われるしくみ
大家が生活保護受給者の入居に慎重になる理由の多くは、家賃滞納への不安です。これに正面から答えるのが「代理納付」です。生活保護法第37条の2にもとづき、住宅扶助を受給者の口座を経由せず、自治体から家主へ直接納付できます[3]。
厚生労働省の通知では、どういう場合に代理納付を行うかが示されています[3]。
- 家賃を滞納している場合:「住宅扶助及び共益費について、原則、代理納付を適用されたい」。ただし「家主が希望しない場合や住宅扶助費が満額支給されない場合等は、代理納付を適用しない取扱い」
- 公営住宅の場合:「住宅扶助について、原則、代理納付を適用されたい」
- 登録住宅の場合:「新たに入居する被保護者の住宅扶助及び共益費については、原則、代理納付を適用されたい」
さらに実務上の要点として、代理納付にあたり「被保護者の同意及び委任状等は要しない」とされています(ただし「被保護者に代理納付の実施やその趣旨について説明し理解を得ることに努める」とも書かれています)[3]。
つまり、「家賃は自治体から直接お支払いする形にできます」と申込み時に伝えられるということです。これは大家にとって、一般の入居者より回収面が読みやすい条件になり得ます。ここを説明できるかどうかで、審査の通りやすさは変わってきます。
生活保護だと入居審査で断られるのはなぜか
断られる理由は、生活保護そのものというより、次のような個別の懸念に分かれます。
- 家賃の回収:滞納が起きたときに困る、という不安。代理納付の説明で軽くできます
- 保証人・緊急連絡先:高齢で身寄りが少ない場合に強く出ます
- 室内での万一:単身高齢者に対して大家が抱く懸念で、これは生活保護とは別の論点です
3つとも、「生活保護だから」ではなく「単身高齢者だから」の要素が混ざっています。そのため、生活保護の話だけを詰めても解決しないことがあります。緊急連絡先を用意できない場合の進め方は身寄りがない高齢者の賃貸|緊急連絡先がいないときの進め方に、保証会社の審査で実際に何が見られるかは年金収入だけで家賃保証会社の審査は通る?見られる点と落ちたときの選択肢にまとめています。
室内での万一への不安については、見守りサービスを付けることが説明材料になります(R65見守りのような安否確認のしくみです)。
ただし居住サポートの対価は住宅扶助の代理納付の対象にならないとされており、見守りの費用を誰が負担するかは高齢者の賃貸と見守りサービス|誰が契約し、費用は誰が払い、誰に連絡が届くのかで整理しています。
保証人がいない場合はどうするか
連帯保証人を立てられないケースは珍しくありません。実務では家賃保証会社を使うのが一般的で、そのしくみと選び方は保証人がいない高齢者の賃貸|家賃保証会社の使い方と選び方に整理しています。
2025年10月に始まった居住サポート住宅では、生活保護受給者への代理納付が原則とされており、認定された家賃債務保証業者が保証を原則断らないしくみもあります(居住サポート住宅とは?入居する側から見た支援内容とサ高住・登録住宅との違い)。
あわせて知っておきたいのが住宅セーフティネット制度です。国土交通省は、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅を「セーフティネット住宅」として登録する制度を設けており、2025年10月には改正法が施行されて「居住サポート住宅」の認定も始まっています[4]。前述のとおり、登録住宅へ新たに入居する場合は原則として代理納付が適用されます[3]。生活保護を受けている高齢者にとっては、探す優先順位を上げてよい住宅です。
登録されている住宅は、国のセーフティネット住宅情報提供システムで地域から検索できます[5]。
どこに相談すればよいか
順番をつけるとすれば、次のようになります。
- 担当のケースワーカー(福祉事務所):住宅扶助の上限額、転居が認められるか、代理納付の扱いを確認します[1]
- セーフティネット住宅情報提供システム:地域の登録住宅を探します[5]
- 居住支援法人・居住支援協議会:改正住宅セーフティネット法の枠組みで、入居の相談や見守りなどの生活支援を担う窓口です[4]
- 高齢者の受け入れに前向きな不動産会社:上の3つで整理した条件を持ち込むと、話が早く進みます
物件を先に決めてから福祉事務所に相談する順序だと、上限や転居の可否で差し戻される可能性があります。1番を先にしてください。
まとめ:断られる前に、こちらから示せる材料がある
生活保護を受けていることは、部屋探しの障害というより「条件が決まっている」という状態に近いものです。上限額が決まっている代わりに家賃は公費から出ますし、条件が合えば自治体から大家へ直接支払う形も取れます。
大切なのは、大家が不安に思う点に対して、こちらから先に答えを用意しておくことです。住宅扶助の上限を確認し、代理納付が使えるかをケースワーカーに聞き、登録住宅を候補に入れる。この3つを済ませてから申し込めば、審査の景色はかなり変わります。
断られる理由そのものと、その手当ては高齢者が賃貸を断られる理由と対策|シニアが部屋を借りるための5つの準備にまとめています。
- 生活保護の8種類の扶助と住宅扶助の支給方法(「定められた範囲内で実費を支給」)、保護の要件(資産の活用・能力の活用・あらゆるものの活用・扶養義務者の扶養)、相談・申請窓口が福祉事務所であること(「市(区)部では市(区)が、町村部では都道府県が設置しています」):厚生労働省「生活保護制度」。mhlw.go.jp(2026年8月28日確認)
- 住宅扶助基準額の級地別・世帯人数別の金額(1級地1人47,700円・2人57,000円・3〜5人62,000円/2級地1人43,000円・2人52,000円・3〜5人56,000円/3級地1人37,000円・2人44,000円・3〜5人48,000円)、平成27年7月からの基準額であること、級地区分が平成30年4月1日現在であること、特別基準額が「住宅扶助基準額の1.3倍額」の範囲内で福祉事務所が「真にやむを得ないと認めるもの」に適用されること:埼玉県「住宅扶助基準額(生活保護法)」。pref.saitama.lg.jp(2026年8月28日確認)
- 住宅扶助の代理納付(生活保護法第37条の2)を適用する場面(家賃滞納時・公営住宅・登録住宅に新たに入居する被保護者について「原則、代理納付を適用されたい」)、家主が希望しない場合等は適用しない取扱い、「被保護者の同意及び委任状等は要しないものであるが、被保護者に代理納付の実施やその趣旨について説明し理解を得ることに努める」こと:厚生労働省「生活保護法第37条の2に規定する保護の方法の特例(住宅扶助の代理納付)に係る留意事項について」(平成18年3月31日社援保発第0331006号・厚生労働省社会・援護局保護課長)。mhlw.go.jp(法令等データベース)(2026年8月28日確認)
- 住宅セーフティネット制度の枠組み(住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録、2025年10月1日施行の改正による居住サポート住宅の認定、居住支援法人・居住支援協議会による相談や生活支援):国土交通省「住宅セーフティネット制度について」。mlit.go.jp(2026年8月28日確認)
- 登録されているセーフティネット住宅の地域別検索:国土交通省「セーフティネット住宅情報提供システム」。safetynet-jutaku.jp(2026年8月28日確認)
- 転居に伴う敷金等の特別基準(「特別基準額に3を乗じて得た額の範囲内」で認定、近い将来の保護廃止が見込まれる場合は対象外)、荷造費・運搬費の認定(「真にやむを得ないとき」に限り「実施機関が事前に承認した必要最小限度の額」):厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号)。mhlw.go.jp(法令等データベース)(2026年9月11日確認)
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