身寄りがない高齢者の賃貸|緊急連絡先がいないときの進め方

「申込書の連帯保証人の欄は保証会社でどうにかなりました。でも、緊急連絡先の欄が埋まらないんです」——ケアマネジャーの方や、遠縁の甥御さん・姪御さんからのご相談で、いちばん多く聞く言葉です。配偶者は先に亡くなり、きょうだいも高齢か他界していて、子どもはいない。そのうえで「万一のとき連絡がつく人を1名」と求められて、手が止まってしまう。

この行き詰まりは、書ける人を探し続けても解けないことが多いです。解けるのは、ひとつの欄に押し込められている役割をいったん分解して、それぞれを別の仕組みに割り当てたときです。この記事では、その分解のしかたと、公的に用意されている受け皿を、国の資料をもとに順番に整理します。

「連帯保証人」と「緊急連絡先」は、まったく別のものです

最初に切り分けておきたいのが、この2つです。混ざったまま話が進むと、必要のない準備に時間を使ってしまいます。

  • 連帯保証人=家賃が滞ったときに、代わりに支払う義務を負う人。お金の話です。ここは家賃保証会社で代替できる場面が増えています。
  • 緊急連絡先=支払い義務は負わず、体調の急変や災害のときに連絡がつく先。連絡と、その後の段取りの話です。

お金の側については、国も制度を整えてきました。国土交通省は住宅セーフティネット制度のなかで、登録している家賃債務保証業者のうち一定の要件を満たす者を国土交通大臣が認定する制度を設けています[1]。家賃保証会社の使い方そのものは保証人がいない高齢者の賃貸|家賃保証会社の使い方と選び方で詳しく扱っていますので、支払い能力の見せ方で迷っている方はそちらを先にご覧ください。

ここから先は、残った「連絡と、その後の段取り」の話に絞ります。

緊急連絡先が必要とされる理由

大家さんが緊急連絡先に期待している役割は、ひとつではありません。

参考になるのが、医療の分野で先にこの問題を整理した公的な文書です。厚生労働省の『身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン』(2019年5月)は、医療機関が「身元保証・身元引受等」に求めている機能を、次の6つに分解しています[2]

  1. 緊急の連絡先に関すること
  2. 入院計画書に関すること
  3. 入院中に必要な物品の準備に関すること
  4. 入院費等に関すること
  5. 退院支援に関すること
  6. (死亡時の)遺体・遺品の引き取り・葬儀等に関すること

賃貸の場面に置き換えると、①がそのまま緊急連絡先、④が家賃の支払い、⑥が亡くなったあとの部屋と荷物の話にあたります。大家さんが1名の名前で担保したいのは、この複数の役割をまとめてです。だから「誰か1人」を探すと難しくなる。逆に言えば、ひとつずつ別の仕組みで埋めていけば、名前が1つ足りないことは決定的な障害ではなくなります

なお同ガイドラインは、医療行為への同意については本人の一身専属性がきわめて強く、身元保証人・身元引受人等の第三者に同意の権限はないものと考えられる、とも明記しています[2]。「誰かを立てれば何でも代わりに決めてもらえる」わけではない、という点は、貸す側と話すときにも押さえておくと誤解が減ります。

「近親者が全くいない」は、これから急速に増える前提です

身寄りのなさを、その方だけの事情として説明する必要はありません。国の推計が、すでに全体の傾向として示しています。

国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』(令和6年=2024年推計)によると、65歳以上の高齢単独世帯に占める未婚の割合は、令和2年(2020年)時点で男性33.7%・女性11.9%でしたが、令和32年(2050年)には男性59.7%・女性30.2%に達します[3]。実数では、男性の高齢未婚単独世帯が86万世帯から269万世帯へ、女性が57万世帯から191万世帯へ増える見通しです[3]

同推計はこの変化について、現在の高齢単独世帯は別居の子がいる割合が高く本人のきょうだい数も多いため生存している近親者がいる可能性が高いのに対し、30年後は子どものいない割合が高まりきょうだい数も少なくなるため、「近親者が全くいない高齢単独世帯が急増すると想定される」と述べています[3]。ひとり暮らしそのものも増えます。65歳以上の独居率は2020年の男性16.4%・女性23.6%から、2050年には男性26.1%・女性29.3%になると見込まれています[3]。いま65歳以上は総人口の3割近く(2024年10月1日現在で29.3%)を占めており[4]、そのなかで独居がここまで増えるという見通しです。例外的な少数の話ではありません。

貸す側にとっても、身寄りのない入居希望者を一律に断りつづける経営は、これから成り立ちにくくなっていきます。この見通しは、交渉の場で使える材料です。

居住サポート住宅とは:見守りまで含めて認定された住宅

2025年(令和7年)10月1日、改正住宅セーフティネット法が施行されました[1]。借りる側から見て大きいのは、居住サポート住宅の認定制度が新設されたことです。これは、①日常の安否確認、②訪問等による見守り、③生活・心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎ、を行う住宅として認定されるものです[1]

緊急連絡先という欄が求めていたものの相当部分は、この3つです。「連絡がつく親族」ではなく「毎日の安否確認と、異変時に動く先がある住宅」という形で満たす——これが制度として用意された、という理解でよいと思います。高齢者は法律上の住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯)に含まれています[1]

ただし、この制度が動きはじめたのは2025年10月からです[1]。認定を受けた住宅は国土交通省・厚生労働省の「居住サポート住宅 情報提供システム」で地域ごとに探せますが[8]お住まいの地域にまだ該当する住宅が無いこともあります。制度があること自体は交渉の材料になりますが、どの地域でも見つかるという段階ではありません。まず自分の地域に何件あるかを確かめたうえで、次の受け皿②③とあわせて考えるのが現実的です。

あわせて、同じ改正で居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物処理」が追加されました[1]。身寄りがない場合にいちばん引っかかる「亡くなったあと、誰が荷物を片づけるのか」に、法人が正面から関われるようになったということです。お住まいの都道府県が指定している居住支援法人は、都道府県の住宅担当課で確認できます。身寄りがない方の入居に前向きな窓口に相談するところから動き出すのも一つの方法です。

保証人がいない高齢者は家賃債務保証を使えるか

一般財団法人高齢者住宅財団の家賃債務保証は、60歳以上の方、または要介護・要支援認定を受けている60歳未満の方を対象に、連帯保証人の役割を担う仕組みです[5]。保証料は2年間の保証の場合で月額家賃の35%[5]。保証の範囲は、滞納家賃が月額家賃の12か月分に相当する額、原状回復費用・残置物撤去費用が月額家賃の9か月分に相当する額とされています[5]

注目したいのは、原状回復と残置物撤去まで範囲に入っている点です。大家さんが口にする「万一のときの費用が心配」は、この仕組みでかなりの部分が数字として説明できます。保証人不要の物件を探すという形で相談されることも多いのですが、実際には「保証人がいない前提で、何がどこまで担保されるか」を並べたほうが話が早いです。

身寄りがない場合、亡くなったあとの手続きはどうなるか

国土交通省と法務省は、令和3年(2021年)6月7日、単身高齢者(60歳以上の者)が居住用建物を賃借する場面を想定した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しました[6]。中身は2つの契約からなります[7]

  • 解除関係事務委任契約——入居者が亡くなったときに、賃貸借契約を解除する事務を受任者に委任するもの
  • 残置物関係事務委託契約——残された家財をどう扱うか(誰に渡すか、廃棄するか)を、あらかじめ決めて委託するもの

身寄りがない方にとって、この2つは特に意味があります。相続人が誰か分からない、あるいはいない場合、亡くなったあとに部屋の契約と荷物が宙に浮くこと自体が、入居を断られる理由になっていたからです。契約の段階でこれを決めておけば、大家さんの不安は「起きるかどうか分からないこと」ではなく「起きたときにこう動く、と書いてあること」に変わります。上で触れた居住支援法人の残置物処理の業務追加[1]と組み合わせると、親族以外に委ねる道筋が現実的になります。

相続人がいない場合には、そもそも借りる権利が相続されない契約を選ぶ道もあり、その条件は終身建物賃貸借とは?亡くなるまで住み続けられる賃貸契約の条件・解約・探し方にまとめています。

孤独死そのものへの不安をどう伝えるかは、「孤独死が心配」と言われたら|大家さんに安心してもらう伝え方で具体的な言い方を紹介しています。あわせてご覧ください。

判断能力に不安があるときは、成年後見という選択肢

認知症などで判断能力が不十分になった場合に備える制度が、成年後見制度です。成年後見人等は民法の規定により、本人の財産管理や、本人に代わって医療・介護・福祉サービス等の契約の締結を行うことができます[2]。判断能力が不十分になってから利用する法定後見と、十分なうちに備えておく任意後見があります[2]

身寄りがない方に関わる実務で大切なのは、家庭裁判所への申立てができる人に「市町村長」が含まれていることです[2]。本人・配偶者・四親等内の親族に加えて市町村長が申し立てられるため、頼れる親族がいなくても制度に乗ることはできます。地域包括支援センターや市区町村の高齢福祉担当が入口です。

ただし、成年後見人は身元保証人ではありません。前述の6つの役割のうち、後見人の対応でカバーされるものもあれば、そうでないものもあります[2]。ここでも「全部を1人に任せる」発想からは離れておくのが安全です。

緊急連絡先を頼む前に準備しておくこと

ご相談を受けたとき、私たちは名前を1つ探すより先に、次の3つを固めるようお伝えしています。

  1. お金の担保を先に固める。家賃保証会社、または高齢者住宅財団の家賃債務保証[5]。年金収入で家賃をどこまで見るかは年金暮らしの家賃の目安|手取りから逆算する住まいの選び方が目安になります。
  2. 連絡と見守りの手当てを決める。居住サポート住宅[1]や、民間の見守りサービスを組み合わせます。「毎日確認が入る」という事実そのものが、申込時の説明材料になります。
  3. 亡くなったあとの取り決めを書面にする。残置物の処理等に関するモデル契約条項[7]を、不動産会社と居住支援法人に相談しながら準備します。

この3つが揃っていれば、「緊急連絡先の欄が埋まらない」ことは申込のうえで決定的な障害ではなくなります。

実際の進め方——順番を決めると、止まらなくなります

準備が整ったら、あとは動く順番を決めるだけです。

  1. そのうえで物件を探す。この順番だと、内見や申込のときに「緊急連絡先がいない」ではなく「この3つで手当てしてあります」と説明できます。
  2. 自治体の窓口を並行して使う。居住支援協議会・居住支援法人・地域包括支援センターは、いずれも相談を受ける立場です。

お住まいの地域によって、窓口の厚みや物件の見つかりやすさは変わります。都市部での探し方は大阪市で高齢者が賃貸を借りるには|窓口のある市から探す進め方福岡県で高齢者・シニアが賃貸を探すには?探し方と備えで地域ごとに整理しています。賃貸ではなく高齢者向けの住まいも含めて比べたい場合は、シニア向け賃貸とサ高住・有料老人ホームの違い|住まいの選び方が参考になります。

まとめ:埋まらないのは欄であって、道ではありません

身寄りがないことは、賃貸を諦める理由にはなりません。緊急連絡先の欄が埋まらないのは、そこに本来は複数の役割が押し込まれているからです。お金は保証の仕組みで、連絡と見守りは住宅とサービスの仕組みで、亡くなったあとの手続きは契約で。ひとつずつ置いていけば、貸す側に示せる材料はそろいます。

そして、近親者がいない高齢単独世帯はこれから急増すると国も見込んでいます[3]。制度は、その前提に合わせて動きはじめています[1]。ひとりで抱えず、居住支援の窓口や、高齢者の入居に慣れた不動産会社に、途中まででも相談していただければと思います。保証会社の審査そのものについては年金収入だけで家賃保証会社の審査は通る?で整理しています。

生活保護を受けている方の部屋探しについては、生活保護で高齢者が賃貸を借りるには|住宅扶助の上限と入居審査の実際で住宅扶助の上限と代理納付のしくみを整理しています。

安否確認や見守りが制度として付いてくる住宅を探すなら、居住サポート住宅とは?入居する側から見た支援内容とサ高住・登録住宅との違いもあわせてご覧ください。

身元保証会社をすすめられたときに何を確かめればよいかは、高齢の親の賃貸に身元保証会社は必要?家賃保証との違いと契約前に確かめることで国のガイドラインから整理しています。

出典
  1. 令和7年10月1日に改正住宅セーフティネット法が施行されたこと、居住サポート住宅の認定制度が「[1]日常の安否確認、[2]訪問等による見守り、[3]生活・心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎを行う住宅」を対象とすること、登録家賃債務保証業者のうち一定の要件を満たす者を国土交通大臣が認定する制度があること、令和7年10月1日から居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物処理」が追加されたこと、住宅確保要配慮者が「低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯」と定められていること:国土交通省『住宅セーフティネット制度』。mlit.go.jp
  2. 医療機関が「身元保証・身元引受等」に求める機能・役割の6分類(①緊急の連絡先に関すること/②入院計画書に関すること/③入院中に必要な物品の準備に関すること/④入院費等に関すること/⑤退院支援に関すること/⑥(死亡時の)遺体・遺品の引き取り・葬儀等に関すること)、医療行為の同意は本人の一身専属性がきわめて強く第三者に同意の権限はないものと考えられること、成年後見人等が民法の規定により本人の財産管理や医療・介護・福祉サービス等の契約締結を行えること、法定後見と任意後見の区別、家庭裁判所への申立てができる人が「本人、配偶者、四親等内親族、市町村長等」であること、「身元保証・身元引受等」に求める役割のうち成年後見人等の対応によってカバーされるものもあること:厚生労働省『身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン』(2019年5月)。mhlw.go.jp(PDF)
  3. 65歳以上の高齢単独世帯に占める未婚の割合が令和2年(2020年)男性33.7%・女性11.9%から令和32年(2050年)男性59.7%・女性30.2%に達すること、高齢未婚単独世帯の実数が男性86万世帯→269万世帯・女性57万世帯→191万世帯へ増えること、「近親者が全くいない高齢単独世帯が急増すると想定される」こと、65歳以上の独居率が令和2年の男性16.4%・女性23.6%から令和32年に男性26.1%・女性29.3%になる見通しであること:国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6(2024)年推計)-令和2(2020)~32(2050)年-』(概要)。ipss.go.jp(PDF)
  4. 全国の高齢化率29.3%(令和6年=2024年10月1日現在):内閣府『令和7年版高齢社会白書』第1章第1節「高齢化の現状と将来像」。cao.go.jp
  5. 家賃債務保証の対象が「60歳以上の方、または要介護・要支援認定を受けている60歳未満の方」であること、保証料が2年間の保証の場合で月額家賃の35%であること、保証の範囲が滞納家賃について月額家賃の12か月分に相当する額、原状回復費用・残置物撤去について月額家賃の9か月分に相当する額であること、財団が連帯保証人の役割を担うこと:一般財団法人高齢者住宅財団『家賃債務保証』。koujuuzai.or.jp
  6. 「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を国土交通省及び法務省が令和3年6月7日に策定したこと、想定する入居者が「単身高齢者(60歳以上の者)」であること:国土交通省 報道発表資料『残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について』(令和3年6月7日)。mlit.go.jp
  7. モデル契約条項が「解除関係事務委任契約」と「残置物関係事務委託契約」の2つで構成されること、および単身の高齢者を対象とすること:国土交通省『残置物の処理等に関するモデル契約条項』。mlit.go.jp
  8. 認定を受けた居住サポート住宅を地域ごとに検索できる(登録状況の確認に使う):国土交通省・厚生労働省「居住サポート住宅 情報提供システム」。support-jutaku.mlit.go.jp

出典URLはいずれも2026年8月26日に閲覧し、掲載内容を確認しています。制度の運用は自治体によって異なる場合がありますので、最終的なご判断の前にお住まいの市区町村の窓口でご確認ください。

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