高齢の親の部屋を探していると、「更新のときにまた断られるのではないか」という不安が残ります。せっかく決まっても、2年後にもう一度同じ思いをするのかと考えると気が重いものです。その不安に正面から応える契約のかたちが、法律で用意されています。この記事は、事業者が認可を取るための手続きではなく「入居する側から見て何が変わるのか」に絞って、終身建物賃貸借を整理します。
終身建物賃貸借とは何か(普通の賃貸契約と何が違うのか)
終身建物賃貸借は、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)にもとづく契約です。国土交通省の説明では、「都道府県知事等の認可を受けた事業者」が、「借家人が生きている限り存続し、死亡時に終了する(賃借権が相続されない)1代限りの賃貸借契約」を結べる制度とされています[1]。
普通の賃貸契約との違いは、大きく二つです。ひとつは更新という区切りが無いこと。もうひとつは亡くなったときに契約が終わり、借りる権利が相続されないことです。前者は借りる側の安心につながり、後者は貸す側にとっての安心につながります。国土交通省の資料も、賃借人のメリットとして「住み慣れた家に死ぬまで居住できる」ことを、賃貸人のメリットとして「無用な借家契約の長期化を避けることができる」「相続人への明渡し請求に伴う立退料を請求されるおそれがない」ことを、それぞれ挙げています[4]。
「高齢だから断られる」の裏返しにある大家さんの不安を、契約の形で減らすしくみだと考えると分かりやすいと思います。大家さんの不安にどう向き合うかは「孤独死が心配」と言われたら|大家さんに安心してもらう伝え方でも扱っています。
何歳から契約できるのか・同居できるのは誰か
入居できる人の条件は、国土交通省が次のように示しています[1]。
- 高齢者(60歳以上)であること
- 単身又は同居者が高齢者親族であること(配偶者は60歳未満も可)
東京都のページでも同じ内容が、「入居者本人が60歳以上であること」と「入居者本人が単身であるか、同居者が配偶者もしくは60歳以上の親族であること」の両方が必要、と説明されています[3]。
読み違えやすいのは60歳という下限です。サービス付き高齢者向け住宅などで見かける「65歳から」とは別で、この制度は60歳から使えます。また、配偶者は年齢を問わないため、夫婦のどちらか一方が60歳以上であれば検討の対象になります。
更新はあるのか、大家から解約されることはあるのか
終身建物賃貸借には更新がありません。契約は入居者が生きている限り続き、亡くなったときに終了します[1]。
では大家さん側から終わらせることはできるのか。ここが借りる側にとって重要な点で、国土交通省の資料は「家主からの解約申入れは、住宅の老朽等の場合に限定」と明記しています[4]。年齢や健康状態の変化を理由に出ていってほしいと言われる場面を、制度の側であらかじめ狭めているということです。
いま住んでいる普通の賃貸で更新を断られた・立ち退きを求められたという段階の方は、期限の数え方を高齢者の賃貸と立ち退き|更新を断られたときの期限・立ち退き料・次の部屋の探し方で確認してください。
さらに、国と自治体向けの施行通知では、「高齢者住まい法第72条及び借地借家法第21条等に基づき、賃借人に不利な特約は無効となる」と示されています[6]。契約書に借りる側へ不利な条項が入っていた場合、その部分は効力を持ちません。
なお契約の方式について、同じ通知は「終身建物賃貸借の契約書は、公正証書に限定されず、書面による契約がなされていれば差し支えない」としています[6]。公証役場へ出向く必要がある制度ではありません。
途中でやめたいときは解約できるのか(施設に入るとき・親族と同居するとき)
「終身」と聞くと、途中でやめられないのではと心配になりますが、借りる側からの解約はできます。国土交通省は、賃借人からの解約を次の2通りに分けて説明しています[1]。
- 療養、老人ホームへの入所、親族との同居等が理由の場合は、解約申し入れ一か月後に契約終了
- その他の理由の場合は、解約申し入れ6か月後に契約終了
親の状態が変わって施設へ移る、あるいは子世帯と同居することになる——高齢の住まいでいちばん起こりやすい変化が、短いほうの区分に置かれています。「終身の契約だから施設に移れない」ということはありません。住み替えそのものの進め方は高齢の親の住み替え|家族が知っておく賃貸の進め方にまとめています。
判断能力が下がってきた段階での契約の可否や、後見が必要になる場面は認知症の親の賃貸契約|本人名義で結べるか・家族が代われるか・成年後見が必要になる場面で整理しています。
ふつうの賃貸契約のまま入院・施設入所になったときに、解約をいつ決めるかは高齢の親が入院したときの賃貸の解約|いつ決めるか・家族が代われるか・荷物はどうするかで扱っています。
入居者が亡くなったあと、同居していた家族は住み続けられるのか
賃借権が相続されない契約なので、同居していた家族がそのまま自動で引き継ぐことはできません。ただし、申し出による継続居住の道が用意されています。国土交通省は「入居者の死亡を知った日から1月以内の申出により継続居住が可能」としています[1]。対象は、亡くなった賃借人と同居していた配偶者または60歳以上の親族です[4]。
期限が1か月と短い点は、家族側が知っておくべきところです。葬儀や各種の手続きが立て込む時期と重なるため、契約時に「同居する人が住み続けたい場合は、いつまでに誰へ申し出るのか」を確認し、書き留めておくとよいでしょう。相続人が近くにいない場合の備え方は身寄りがない高齢者の賃貸|緊急連絡先がいないときの進め方で扱っています。
前払家賃を求められたらどう見るか(保全措置)
終身建物賃貸借では、家賃の一部または全部をまとめて前払いする形が採られることがあります。この点にも制度上の歯止めがあり、住宅の基準として「前払家賃を受領する場合にあっては、当該前払家賃の算定根拠が書面で明示され、必要な保全措置が講じられるものである」ことが求められています[4]。
つまり、いくらを何年分として預けるのかという計算の根拠が書面で示され、事業者に万一のことがあっても返ってくるようにする措置がとられていることが前提になります。まとまった額を求められたときは、この2点が説明されているかを確かめてください。年金収入から住まいの費用を組み立てる考え方は年金暮らしの家賃の目安|手取りから逆算する住まいの選び方で解説しています。
いきなり終身の契約を結ぶのが不安なとき(1年以内の仮入居)
合う住まいかどうかは、住んでみないと分からない面があります。制度はその点も想定していて、「借家人が希望すれば、終身建物賃貸借契約の前に定期借家により1年以内の仮入居が可能」とされています[4]。国土交通省の制度ページでも「1年以内の仮入居が可能」と説明されています[1]。
本人が高齢で判断に迷う場合や、家族が遠方で様子を見たい場合には、この仮入居から入る選択肢があることを、相談の場で伝えてみてください。
2025年10月に何が変わったのか(認可手続きの簡素化と既存住宅の基準緩和)
令和7年10月1日、改正住宅セーフティネット法が施行されました[7]。この改正では高齢者住まい法も合わせて改められ、終身建物賃貸借の使い勝手が見直されています。借りる側から見て意味があるのは、次の3点です。
- 認可が住宅単位から事業者単位になった——認可申請書には「終身建物賃貸借を行う賃貸住宅の位置、戸数、規模並びに構造及び設備等の記載を要しない」こととされ、実際に契約するときに、あらかじめ都道府県知事等へ届け出るしくみに改められました[6]。これまでは物件ごとに認可が要ったため、大家さんが手を挙げにくいしくみでした。
- 既存の住宅の基準が緩んだ——既存住宅の場合、各戸の床面積は「原則として18㎡以上」、加齢対応の構造は「階段、便所、浴室に手すりを設けること等」として基準が緩和されています[6]。新築の住宅に用意された制度から、いま建っている賃貸でも使える制度へ寄せられたことになります。
- 認可の手数料も、徴収しない方向で検討するよう国から求められています[6]。
基準の見直しは今回が初めてではありません。平成30年(2018年)9月10日には、付近見取図や配置図などの添付書類を不要にする申請手続の簡素化、段差や階段の寸法に関するバリアフリー基準の削除、9㎡以上のシェアハウス型住宅の活用が実施されています[2]。それでも普及が進まなかったため、今回さらに踏み込んだという経緯です。
ただし範囲には限りがあり、認可は「終身賃貸事業を行おうとする都道府県又は指定都市若しくは中核市ごとに認可を受ける必要があり、認可を受けていない都道府県等の区域内において、終身建物賃貸借を行うことはできない」とされています[6]。同じ会社でも、認可を取っている地域とそうでない地域があるということです。
同じ改正で新しく始まった居住サポート住宅とは?入居する側から見た支援内容とサ高住・登録住宅との違いとは別の制度なので、混同しないようにしてください。あちらは入居後の見守りや福祉へのつなぎ、こちらは契約の続き方の話です。
認可を受けた住宅はどこで探せるのか(数はどれくらいあるのか)
期待を持ってもらう前に、規模を正直に書いておきます。国土交通省の資料によれば、認可の実績は14,774戸(うちサービス付き高齢者向け住宅以外281戸)・293棟(うちサ付以外15棟)で、令和3年度末時点のものです[5]。
ここで見ておきたいのは内訳です。1万4千戸あまりのうち、サービス付き高齢者向け住宅ではない、一般の賃貸住宅としての終身建物賃貸借は281戸にとどまります[5]。平成28年度末の集計では9,733戸のうちサ付以外が331戸でしたから[4]、全体が増えるあいだ、サ高住以外の部分はむしろ減っています。制度の名前は知られていても、街なかの普通のアパートやマンションで出会う機会は、今のところ多くありません。国土交通省自身も、活用が進まない課題として「そもそも制度が知られていない」ことを挙げていました[4]。
そのうえで、探し方はあります。認可の窓口は都道府県・指定都市・中核市なので[6]、まずはお住まいの自治体の住宅部局に問い合わせるのがいちばん早い入口です。たとえば東京都は住宅政策本部のページに認可事業者の一覧と「東京都終身認可事業者による届出住宅一覧」を掲載しており、担当は民間住宅部の安心居住推進課 高齢者住宅担当とされています(2026年6月12日更新)[3]。東京での部屋探し全般は東京23区・多摩地域で高齢者が賃貸を借りるには|窓口がある区市から探すにまとめています。
同じ都道府県内でも、認可を取っている事業者がいない地域はあります。その場合は地域の居住支援法人や居住支援協議会が相談の受け皿になります。県内の支援の広がり方は茨城県でシニアが賃貸を探すコツ|TX沿線と常磐線で選ぶ、単独世帯が急増する県のような地域の記事でも触れています。
サービス付き高齢者向け住宅・居住サポート住宅との違い
名前が似た制度が並ぶので、軸を分けて整理します。
- 終身建物賃貸借は「契約の形」の制度です。更新が無く、亡くなったときに終了し、相続されません[1]。建物にサービスが付いてくるという意味ではありません。
- サービス付き高齢者向け住宅は「住宅+サービス」の登録制度です。国土交通省の説明では、居室の広さや設備、バリアフリーといったハード面の条件を備えるとともに、ケアの専門家による安否確認や生活相談サービスを提供する住宅とされています[8]。
- 居住サポート住宅は「入居後の支援」の認定制度で、令和7年10月に始まりました[7]。
実際には、この3つは重なります。終身建物賃貸借の認可戸数の大半がサービス付き高齢者向け住宅であることは前の章で見たとおりで[5]、サ高住を検討する過程で契約の形として終身建物賃貸借に出会う、という順序になりやすいのが実情です。サ高住や有料老人ホームとの費用・役割の違いはシニア向け賃貸とサ高住・有料老人ホームの違い|住まいの選び方で比べています。
まとめ:出会える数は限られるが、知っておくと交渉の材料になる
終身建物賃貸借は、更新の不安と、亡くなったあとの手続きの不安を、契約の形でいっしょに軽くするしくみです。一方で、サ高住以外の一般の賃貸としての認可はまだ281戸(令和3年度末時点)にとどまり[5]、これだけを待って部屋探しを進めるのは現実的ではありません。終身建物賃貸借以外で長く住める部屋を探すことも、並行して選択肢に入れておく価値があります。
実務的には、①住みたい地域の自治体に認可事業者の一覧があるかを確認する ②見つからなければ一般の賃貸で並行して探す ③大家さんが高齢の入居に不安を示したときの選択肢として、この契約の形を話題に出す——という使い方が現実的です。部屋の母数を広げる工夫は岡山県でシニアが賃貸を探す|共同住宅31.7%の県で、部屋の母数をどう広げるかでも具体的に書いています。保証人がいない場合の備えは保証人がいない高齢者の賃貸|家賃保証会社の使い方と選び方とあわせて確認してください。
制度の説明を読むと難しく感じますが、窓口で聞くことは3つで足ります。「終身建物賃貸借の認可を受けているか」「仮入居はできるか」「前払家賃があるなら算定根拠と保全措置はどうなっているか」。この3つを持っていけば、話は前に進みます。
- 終身建物賃貸借の認可権者(都道府県知事等の認可を受けた事業者)/契約の性質(借家人が生きている限り存続し、死亡時に終了する(賃借権が相続されない)1代限りの賃貸借契約)/入居者の要件(高齢者(60歳以上)であること/単身又は同居者が高齢者親族であること(配偶者は60歳未満も可))/住宅の基準(段差の無い床、浴室等の手すり、幅の広い廊下)/同居者の継続居住(入居者の死亡を知った日から1月以内の申出により継続居住が可能)/賃借人からの解約(療養、老人ホームへの入所、親族との同居等が理由の場合は解約申し入れ一か月後に契約終了/その他の理由の場合は解約申し入れ6か月後に契約終了)/1年以内の仮入居が可能であること(2026年9月1日閲覧時点):国土交通省「終身建物賃貸借」。mlit.go.jp
- 平成30年9月10日公布・施行の制度改正(申請手続の簡素化、バリアフリー基準の緩和、9㎡以上のシェアハウス型住宅の活用、高齢者居住安定確保計画による設備基準・バリアフリー基準の強化又は緩和):国土交通省 報道発表資料「『死亡するまで住み続けられる賃貸住宅』の制度が使いやすくなります!~終身建物賃貸借事業の申請手続の簡素化及び基準の緩和~」(平成30年9月10日)。mlit.go.jp
- 入居者本人が60歳以上であること・入居者本人が単身であるか同居者が配偶者もしくは60歳以上の親族であること/1戸あたりの床面積が原則25㎡以上(高齢者が共同して利用するために十分な面積を有する共同の設備がある場合は18㎡以上)/認可事業者一覧および「東京都終身認可事業者による届出住宅一覧」の掲載/担当は民間住宅部 安心居住推進課 高齢者住宅担当(ページ更新日2026年6月12日):東京都住宅政策本部「終身建物賃貸借制度」。juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp
- 家主からの解約申入れは住宅の老朽等の場合に限定されること/前払家賃を受領する場合の算定根拠の書面明示と保全措置/終身建物賃貸借契約の前に定期借家により1年以内の仮入居が可能であること/平成28年度末時点の認可実績9,733戸(うちサ付以外331戸)・193事業者(うちサ付以外9事業者)/賃借人のメリット(住み慣れた家に死ぬまで居住できること、賃貸人からの解約の申入れ事由が限定されていること、1年以内の定期建物賃貸借による仮入居、死亡した賃借人と同居していた配偶者又は60歳以上の親族の継続居住、前払金の保全措置)/賃貸人のメリット(無用な借家契約の長期化を避けられること、残置物の処理等を円滑に行えること、相続人への明渡し請求に伴う立退料を請求されるおそれがないこと)/課題(申請書類が多く手続きが煩雑、サ高住と同等のバリアフリー基準、そもそも制度が知られていない):国土交通省「終身建物賃貸借事業の概要と実績」。mlit.go.jp(PDF)
- 令和3年度末時点の認可実績14,774戸(うちサ付以外281戸)・293棟(うちサ付以外15棟)/改正法における終身建物賃貸借の認可手続の簡素化(住宅ごとの認可から事業者の認可へ):国土交通省「住宅セーフティネット制度の見直しについて」(令和6年3月 国土交通省住宅局)。mlit.go.jp(PDF)
- 都道府県又は指定都市若しくは中核市ごとに認可を受ける必要があり認可を受けていない区域内では終身建物賃貸借を行えないこと/認可申請書において賃貸住宅の位置・戸数・規模並びに構造及び設備等の記載を要しないこと/認可事業者は終身建物賃貸借をするときにあらかじめ都道府県知事等へ届け出ること/契約書は公正証書に限定されず書面による契約で差し支えないこと/既存住宅の床面積は原則として18㎡以上、加齢対応構造等は階段・便所・浴室に手すりを設けること等として基準が緩和されたこと/高齢者住まい法第72条及び借地借家法第21条等に基づき賃借人に不利な特約は無効となること/認可に係る手数料は徴収しない方向で検討を求めていること/改正法の施行日(令和7年10月1日):国土交通省・厚生労働省「別紙7(高齢者住まい法の改正について)」(改正住宅セーフティネット法等の施行に関する通知の別紙)。mlit.go.jp(PDF)
- 改正住宅セーフティネット法が令和7年10月1日に施行されたこと/居住サポート住宅の認定制度が同法により創設されたこと(2026年9月1日閲覧時点):国土交通省「住宅セーフティネット制度 ~誰もが安心して暮らせる社会を目指して~」。mlit.go.jp
- サービス付き高齢者向け住宅の登録制度の内容(住宅としての居室の広さや設備、バリアフリーといったハード面の条件を備えるとともに、ケアの専門家による安否確認や生活相談サービスを提供すること):国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅 情報提供システム」制度の解説。satsuki-jutaku.mlit.go.jp
認可住宅が見つからなくても、住み続けられる部屋の探し方はあります
一般の賃貸も含めて、高齢の方の入居に前向きな大家さん・窓口におつなぎします。まずはお気軽にご相談ください。