「庭の手入れがきつくなってきたので、駅に近い部屋へ移りたい」「子どもが独立したから、夫婦二人に合った広さで住み直したい」——千葉県内にお住まいの方から、こうしたご相談をよくいただきます。年齢を理由にオーナーが慎重になる場面があるのは事実ですが、千葉は東京湾岸から房総の海辺まで街の性格が大きく違い、選択肢の幅が広い県です。どのエリアで、どんな条件を優先するのかを先に決めておけば、シニアにとって暮らしやすい部屋は十分に見つかります。この記事では、千葉県の公的データと地域の事情の両面から、部屋探しの進め方を整理します。
数字で見る千葉県の住まい事情
まず「量」から確認します。総務省『令和5年住宅・土地統計調査』の基本集計によると、千葉県の総住宅数は2023年10月1日現在で319万1千戸で、2018年の303万戸から5.3%増えました[1]。全国の増加率4.2%を上回るペースで、東京都・神奈川県・大阪府・愛知県・埼玉県に次ぐ全国6番目の住宅ストックです。住宅が増え続けている県なので、比較的新しい物件も選択肢に入ってきます。
ここで、千葉ならではの注意点をひとつお伝えします。「全国は空き家が増えているから、シニアでも借りやすくなっている」という説明を見かけますが、この論法は千葉県ではそのまま当てはまりません。全国の空き家率が13.8%(2023年)と過去最高を更新したのに対し、千葉県の空き家率は12.3%で全国を下回り、しかも2018年の12.6%から低下しています[1][2]。つまり千葉は「部屋が余っている県」ではなく、住宅の総量が増えているのに、それがきちんと埋まっている県です。首都圏では東京23区・多摩地域で高齢者が賃貸を借りるには|窓口がある区市から探すで触れた東京都(10.9%)や埼玉県でシニアが賃貸を探すコツ|平坦な街と路線で選ぶで扱った埼玉県(9.3%)も同様に低く、この傾向は共通しています[1]。条件のよい部屋ほど早く決まると考えて動くのが正解です。首都圏の外でも同じ構図の県はあり、東北6県でいちばん空き家率の低い宮城県については宮城県(仙台)で高齢者が賃貸を借りるには|空き家が少ない県での探し方で解説しています。逆に空き家率が全国を上回る県でも「空き家の多さ=借りやすさ」にはならない例は、岡山県でシニアが賃貸を探す|共同住宅31.7%の県で、部屋の母数をどう広げるかで扱っています。
もっとも、同じ「空き家」でも中身は一様ではありません。千葉県では、賃貸・売却用や別荘などを除いた、いわゆる使われないまま残っている空き家が15万9千戸あり、その割合は2018年の4.8%から5.0%へ上昇しています[1][2]。全体の空き家率が下がるなかでこちらだけが増えているのは、貸し出されている住宅はよく埋まる一方、貸すか売るかを決めかねている住宅が積み上がっているという県内の実情を示しています。裏を返せば、条件を整えた入居希望者が現れれば賃貸に回せる住宅は残っている、ということでもあります。
借りられる部屋の量も見ておきましょう。建て方でみると、千葉県は一戸建が146万3千戸(52.6%)、共同住宅が126万8千戸(45.6%)で、共同住宅の割合は全国の44.9%をわずかに上回ります[1]。持ち家住宅率は64.7%と全国の60.9%より高いものの、集合住宅が126万戸以上ある県でもあります。視野を全国に広げると、民営借家は1568万4千戸あって住宅全体の28.2%を占めます[1]。さらに、借り手を待って空いたままの住宅が443万3千戸[2]。空室のあいだ家賃はゼロですから、支払いと万一への手当てができている相手なら、貸す側にとって断る理由のほうが乏しくなります。
高齢のひとり暮らしは、もう例外ではない
借り手側の顔ぶれも変わりました。65歳以上の人口は全国で3,624万人に達し、高齢化率は29.3%です(2024年10月1日現在)[3]。そのうち高齢単身世帯は761万7千世帯を数え、65歳以上の世帯員がいる世帯の32.1%(2023年)と、これまででいちばん高い割合になっています[1]。
ここで、部屋探しをする側にとって心強いデータがあります。高齢者のいる世帯をひとまとめにすると借家住まいは18.2%ですが、ひとり暮らしに限ると32.2%まで上がり、およそ3世帯に1世帯が賃貸で暮らしています(2023年)[1]。数字のうえでは、単身で部屋を借りることはもう主流の選択肢のひとつです。「この歳で借りるなんて」と遠慮する理由はありません。
家賃の見当をつけるときは、全国の借家(専用住宅)の1か月当たり家賃が平均59,656円(2023年)であることが一つの目安になります[1]。ただし千葉県内でも、市川・浦安といった東京都に接するエリアと、内房・外房の沿線とでは相場感がまるで違います。実際の予算は年金暮らしの家賃の目安|手取りから逆算する住まいの選び方のように、年金の手取りから逆算して決めると、入居後に家賃が重くなりにくくなります。公営住宅も含めて検討する場合の申込みの条件と待ち時間は、高齢の親が公営住宅に当たらないとき|単身で申し込める条件・収入基準・倍率と、待つあいだの住まいで整理しています。
沿線で選ぶ千葉——県西部・東葛・千葉市・房総
千葉の部屋探しは、沿線を軸にすると一気に整理しやすくなります。県内は放射状に路線が伸びており、どの線を選ぶかで生活の性格がほぼ決まるからです。
県西部(市川・船橋・浦安・習志野)は、JR総武線(快速・各駅停車)、京成本線、東京メトロ東西線の直通、京葉線が重なる、県内でもっとも交通の密なエリアです。江戸川を渡ればすぐ東京都で、都心の医療機関に通い続けたい方や、都内に住む子ども世帯の近くへ移りたい方に向いています。船橋は総武線・東武アーバンパークライン(野田線)・京成本線・東葉高速鉄道が集まる乗り換えの要で、買い物先も駅前にまとまっています。
東葛エリア(松戸・柏・流山・我孫子・野田)はJR常磐線とつくばエクスプレス、東武アーバンパークラインが走る地域です。柏は常磐線と野田線が交差する商業の集積地で、大きな病院も揃っています。松戸の常盤平をはじめ大規模な住宅団地が早い時期に整備された地域でもあり、団地系の賃貸が比較的まとまった数で供給されているのが東葛の特徴です。常磐線とつくばエクスプレスはさらに北の茨城県まで伸びており、県境をまたいだ沿線の選び方は茨城県でシニアが賃貸を探すコツ|TX沿線と常磐線で選ぶ、単独世帯が急増する県で扱っています。
千葉市(中央・稲毛・美浜・花見川)は県庁所在地で、総武線・京葉線・内房線・外房線・千葉都市モノレール・京成千葉線が集まります。海側の美浜区は海浜ニュータウンとして計画的に開発された平坦な街で、道路も歩道も広く取られています。県内の行政手続きの窓口や中核的な医療機関に近いという安心感は、この地域ならではです。
内房・外房(木更津・君津・茂原・館山・鴨川)は、同じ家賃でもう少し広い部屋を、と考える方の選択肢です。内房線・外房線に加え、木更津・君津方面は東京湾アクアラインの高速バスで都心や横浜方面と結ばれており、「電車では遠いがバスでは近い」という独特の位置関係にあります。ただし駅から離れると車が前提の生活になりやすいので、免許の返納を考えている方は駅・バス停・スーパー・診療所の4点が徒歩圏に収まるかを先に確認しておくと安心です。
もう一つ、千葉で覚えておくと役に立つのが北総線・京成本線と成田方面のつながり、そして武蔵野線が県北西部(船橋法典・市川大野・松戸方面)で各線と接続している点です。「どの駅か」だけでなく「どこへ乗り換えられる駅か」まで見ておくと、通院先や家族の家が別の沿線にあっても日常の負担を小さくできます。
地形と気候は、千葉の隠れた長所
千葉県には高い山がありません。県土の大半は下総台地と房総丘陵で構成され、房総丘陵の南部でも標高はごく低く抑えられています。坂の少なさは、シニアの部屋探しでは見落とされがちですが、買い物袋を提げて帰る道、雨の日の通院、シルバーカーや自転車での移動に直結する条件です。坂の多い街では「駅から徒歩10分」の意味が平坦地とはまったく変わります。たとえば六甲山地と海に挟まれた神戸のように、山手と浜手で歩きやすさが大きく違う街もあります(兵庫県(神戸)で高齢者・シニアが賃貸を借りるには)。千葉ではその心配が少ないぶん、駅からの距離を少し広げて家賃と広さを取りにいく、という選び方ができます。逆に坂や団地の高低差が部屋選びを左右する県の例は、広島県でシニアが賃貸を探すコツ|広島市・備後・呉で変わる住まい探しで取り上げています。
ただし「千葉はどこも平ら」と思い込むのは禁物です。県北西部の市川・松戸・千葉市の一部では、下総台地の縁と低地が入り組んでおり、同じ市内でも台地の上と下で急な坂や長い階段が挟まる場所があります。地図では分かりにくいので、内見のときは駅から現地まで自分の足で歩いてみることをおすすめします。
気候の面では、千葉は冬の積雪が少なく温暖です。路面の凍結による転倒は高齢者にとって深刻なけがにつながりますから、雪の少なさは日々の安全に直結する利点といえます。一方で確認しておきたいのは水と地盤です。東京湾岸の埋立地では過去の地震で液状化が起きており、九十九里や外房沿岸は津波の想定区域を含みます。内陸でも大雨時の浸水想定はエリアによって差があるので、内見の際に自治体のハザードマップで住所単位の想定を見ておくと安心です。
これから倍増する「ひとり暮らしの後期高齢者」と大家さんの事情
貸す側が何を見ているかがわかると、話の持っていき方も変わります。国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2024年推計)は、千葉県の世帯主65歳以上の単独世帯について、2020年の33万世帯から2050年には55万2千世帯へ、67.1%増える見通しです[4]。全国の増加率46.9%を大きく上回ります。
さらに目を引くのが後期高齢者の数字です。世帯主が75歳以上の単独世帯は、千葉県では2020年の18万3千世帯から2050年には36万2千世帯へ、98.5%増(ほぼ2倍)と推計されています[4]。全国の68.7%増を30ポイント近く上回る伸びです。同推計では、75歳以上人口に占める単独世帯主の割合(独居率)も、千葉県は2020年の20.8%から2050年には29.0%へ上昇するとされています[4]。かつて住宅を大量に供給して人口が急増した県が、そのまま高齢化していく——千葉はその典型です。
55万世帯という規模は、貸す側にとって無視できる数ではありません。単身の高齢者を避け続ける運用は、千葉県では早晩、借り手が見つからないという形で返ってきます。国の制度も受け入れを後押しする方向です。住宅セーフティネット制度のもとで、高齢者や低額所得者の入居を拒まない住宅を登録でき、居住支援法人と居住支援協議会が相談の受け皿になっています[5]。断られる前提で臨むのと、こうした流れを知って臨むのとでは、相談の場での構え方が違ってきます。
断られにくくするための備え
行き先の見当がついたら、準備に移ります。千葉だからという特別な作法はなく、用意するのは家賃保証会社の契約、緊急連絡先、見守りサービスの3点です。貸す側の心配は「家賃が入り続けるか」と「異変にすぐ気づけるか」に集約されるので、前者は保証会社の審査を通ったこと、後者は見守りを契約していることを、そのまま答えとして示せます。保証人を頼める相手がいない場合の進め方は保証人がいない高齢者の賃貸|家賃保証会社の使い方と選び方で解説しています。オーナーから孤独死への不安を口にされたときの受け答えは「孤独死が心配」と言われたら|大家さんに安心してもらう伝え方にまとめました。そもそも緊急連絡先を頼める親族がいない場合の進め方は、身寄りがない高齢者の賃貸|緊急連絡先がいないときの進め方で整理しています。
あわせて、内見のときに確認しておきたい点も整理しておきましょう。玄関・浴室の段差、手すりの有無、エレベーターの有無、駅までの道の歩道と信号、最寄りのスーパーや診療所までの距離、市役所・支所や地域包括支援センターへの行きやすさ。前述のとおり千葉では空き家率が下がっており、条件のよい部屋ほど動きが早いので、「譲れない条件」と「あれば嬉しい条件」をあらかじめ分けておくと、いざというときに迷わず決められます。準備の全体像は高齢者が賃貸を断られる理由と対策|シニアが部屋を借りるための5つの準備にまとめています。入居後に手すりを付けたくなったときの大家さんへの頼み方と介護保険の使い方は、高齢の親の賃貸に手すりを付けたいとき|大家さんの承諾・介護保険の住宅改修・退去時の原状回復で整理しています。
まとめ:千葉は「沿線」と「歩ける距離」で選ぶ
千葉県は総住宅数319万1千戸という全国6番目のストックを持ちながら、空き家率は12.3%と全国を下回り、2018年からさらに低下しました。つまり「余っているから借りやすい」のではなく、「量が増え、それがよく使われている」県です。だからこそ、県西部・東葛・千葉市・房総という沿線ごとの性格を先に決め、坂の少なさという千葉の強みを活かして「歩いて暮らせる距離」に的を絞ると、限られた選択肢のなかでも納得のいく部屋にたどり着けます。そのうえで保証会社・緊急連絡先・見守りという備えを揃えれば、年齢を理由に立ち止まる場面はぐっと減らせます。一人で抱え込まず、高齢者の入居に慣れた窓口へ相談することから始めてみてください。
- 千葉県の総住宅数319万1千戸・2018年303万戸から5.3%増、空き家数39万4千戸・空き家率12.3%、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家15万9千戸・5.0%、一戸建146万3千戸(52.6%)・共同住宅126万8千戸(45.6%)・持ち家住宅率64.7%、全国の総住宅数6504万7千戸・空き家率13.8%・一戸建52.7%・共同住宅44.9%・持ち家住宅率60.9%、民営借家1568万4千戸(住宅全体の28.2%)、借家(専用住宅)の1か月当たり家賃59,656円、高齢単身世帯761万7千世帯(高齢者のいる世帯の32.1%)・高齢単身世帯の借家割合32.2%(高齢者のいる世帯全体18.2%)、東京都10.9%・埼玉県9.3%の空き家率(いずれも2023年10月1日現在):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要』(付表 都道府県別の主な指標ほか)。stat.go.jp(PDF)
- 千葉県の2018年の空き家率12.6%・同「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率」4.8%、全国の賃貸用の空き家443万3千戸(2023年10月1日現在):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果』(2024年4月公表)。stat.go.jp(PDF)
- 65歳以上人口3,624万人・高齢化率29.3%(2024年10月1日現在):内閣府『令和7年版高齢社会白書』第1章第1節「高齢化の現状と将来像」。cao.go.jp
- 千葉県の世帯主65歳以上の単独世帯 2020年33万世帯→2050年55万2千世帯(67.1%増/全国46.9%増)、世帯主75歳以上の単独世帯 2020年18万3千世帯→2050年36万2千世帯(98.5%増/全国68.7%増)、75歳以上人口における独居率 2020年20.8%→2050年29.0%(全国22.4%→28.9%):国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2024年推計・2024年11月公表)概要。ipss.go.jp(PDF)
- セーフティネット住宅・居住支援法人・居住支援協議会の仕組み:国土交通省『住宅セーフティネット制度』。mlit.go.jp